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266話 客人と共に
夢の中に取り残されている黒の女王・シャム。彼女を助ける為にドムは走り回っていた。一方ドムの兄・ドミノも黒の国へ訪れたのには意味があった。ドミノ、シイナ、そして護衛の明(あかり)は夢の中で集めた夢のカケラにあった鍵穴に合う鍵を求めて黒の国の「鍵屋」の屋敷を訪ねていた。
※ ※ ※
黒の屋敷を歩く鍵屋一行は、セシルを先頭に黒の城へと向かおうとしていた。
「ちょっといい?」
セシルは客人であるドミノ達のいる部屋の近くで足を止めた。
この家には色々と秘密がある。
使用人だったシイナは大丈夫だとしても、あのドミノと明という客人は探究心から部屋でじっとしているとは思えなかった。
「何をしておる。早く行かんか」
偉そうに喋る青白い老人はセシルの祖父。体の寿命はとっくに過ぎていたが、まだ魂が宿り続け現役で鍵屋を続けている人物だった。
「今客人が来てるの。その人達も連れていっていいかしら」
「何言っておる。国王に会うんだぞ? 何故客人を連れていかねばならん」
「夢の入り口を知ってる…って言っても?」
「何?」
この話に興味を示しているのは祖父だけだった。
セシルの父を含め、弟子の2人…つまり大人3人は生意気な小娘と青白い老人の会話を静かに聞いているしかなかった。
「もしかして、来ているのはシイナか? コントラになって戻ってきたのか?」
シイナの話はこの屋敷の中では有名だった。しかし、その話は外に漏れる事はなかった。
鍵屋の娘に支えてした使用人が主人をさしおいて風の子と契約をしてしまったという話は、誇らしい反面、恥ずかしさもそこにあったのだ。
どうせなら自分の娘がコントラになれればよかったのに、と父親は時々愚痴のように漏らしているのを娘であるセシルは知っている。
「そんなの見栄だけよ。私はシイナで良かったと思ってるわ。私は鍵屋としてやるべき事があるもの」
そう言って父の愚痴を蹴散らすのがセシルの日課だった。
「お前が息子だったら良かったのに」
この言葉も日常茶飯事だった。
「男も女も関係ないわ。私は私よ」
強気なセシルはそんな確執の中で自分を保っていた。
「そうよ。コントラの2人が今私を訪ねてやってきてるの。今はもう貴重な存在なんでしょ? 風の子と契約できるコントラって」
セシルの言葉は権力が大好きな祖父と父親の興味を十分に惹きつけた。
「風の子自体も珍しいぞ!」
青白い祖父の目が輝いた。
「国王にも挨拶するべきじゃないかしら。私たち鍵屋が連れて来たって言ったら箔も付くわよ」
「そりゃぁいい! 連れて行こう!」
そう言って死人のような祖父の顔に赤みが少しだけ戻った。
「待ってて、呼んでくる」
そう言ってセシルは小走りにドミノ達の待つ部屋へと駆け出した。
この屋敷に残しておく不安が減ったとわかり、セシルの足は少し軽くなっていた。
つづく
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