138話 静かな訪問者
ドムは闇の中で出会った少女とたわいない話をしながら、ようやくあの楽しいお茶会をした小屋の前までたどり着りつく事ができた。
※ ※ ※
ドムは小屋に近づき、小さな窓から小屋の中を覗き込んだ。
「ねぇねぇ」
パジャマ姿の少女・あーちゃんが小屋の前に置いてあるテーブルに気が付きドムの手を引っ張った。
「誰かお客さん来てたのかな」
ドムはあーちゃんの声に振り向き心臓が跳ね上がった。
血の気がササーっと引いていくのを感じながらそのテーブルに近づいた。
「これって……」
ドムの肩からミィとチィが飛び降りた。
そこはまるで、ついさっきまで自分たちが座っていたあの「お茶会」の席だった。
ミィがティーカップに近づき中を覗き込む。
「mmm!」
ミィの声にドムもカップを手にして覗き込んだ。カップの中には埃と枯葉が溜まっていた。
カップはもちろん、並べられたどのお皿にも紅茶やお菓子などはなく、まるで誰かを長年待ちづつけそのままの状態で置かれている様に感じた。
「おばあちゃんの言った通りだ……」
少女もお皿を手にし、そこにつまれてた枯葉を払った。
「!?」
ドムは急に眠気に襲われた。これも夢?
少女が払った枯葉が地面へと落下していく。
しかし、そのスピードが明らかにおかしいのだ。
左右に揺れるそのリズムがまるで揺り籠の中で感じるその感覚となりドムに押し寄せる。
右に左に、母の腕の中の温もり、先ほどまで口に含んでいた乳の味、覗き込む父の笑顔、兄弟達の泣き声、降り注ぐ日の香り…全てがドムを包み込み意識が遠のくのを感じた。
枯葉が地面へ着地と同時に少女が声を上げた。
「ねぇってば!」
ドムは腕を強く引かれ、意識を取り戻した。
「誰かいるよ」
少女はドムの足にしがみつき、暗闇の中を指差した。
確かに黒い影がこちらに向かってやってくる。今までの夢心地は消え去り、一気に恐怖に包まれた。
ドムは少女を抱きかかけ、小屋の影に身を隠した。
黒い影は左右に体を揺らし、ドム達に近づいてくる。ドムはその黒い影を睨む様にして観察した。そして見つけた。この恐怖の正体を……。
少女もこの恐怖の正体に気がついた様子で言葉を口にした。
「足音が……ない?」
その静かな訪問者は確実にドム達へと近づいていた。ここを訪れたのは、ドム達だけでは無かったようだ。
つづく
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