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37話 インク屋とミィク

墓守りの兄弟は、露店(ストア)の外れにある『インク屋』に買物に来ていた。

店内に迎え入れられたドミノは、ドムの顔が真っ青な事に気がつき優しい声で近づいた。

「大丈夫ですよ」

しかし、ドムの体からは緊張が取れなかった。
何故なら、ここの店主は「ワニ」の姿をしていたのだ。

「初めて見る顔だね」

ワニの「ジジア」はドムの顔を覗き込み、目元にかけてあるメガネを少しずらし上目遣いで見た。
体はそれほど大きくなく、かすれた声と丸い背中は老婆を感じさせる。

鼻先をスンスン鳴らしては、その大きな口から生温かい息を吐く。
口に並んだ数々の黄色い牙が、ドムには恐ろしく見えていた。

ジジアはすり足で店内を移動し、カウンター内へと戻っていった。

「このインク屋のジジアさんは、墓守のペンと手帳紙を代々作ってこられた方で……」

ドムは、さっきの火影の言葉を思い出した。

「あ、星の子? 星の子なの?」

ジジアはギョロリとした目を細めドムを見た。
ドムはその視線から逃げる様にドミノの背中に回り込み隠れた。

「いや、ワタシはずい分昔にうまれた緑の子だよ。まぁ、星の子の親戚みたいなもんかね」

ジジアはドミノの手にいる星の子に気づきメガネをずらして上目遣いで見つめた。

ドミノは手のひらで踏ん反り返っていた不機嫌顔の星の子を優しくカウンターに置いてやる。

ジジアは丸呑みできそうな程の大きな口を近づけて星の子の匂いを嗅いだ。

「ミィクだね」

鼻息のかかる星の子ミィクは、そっぽを向き面倒くさそうにため息をついた。

「こいつはなかなか、肝が座ってるよ。生まれたばかりかな」
「はい」

ジジアはグッグッグッと笑い、顔をカウンターに生える木に向けた。

「机が木にのまてれる……」

ドムは、ドミノの背中から顔を出し店内に茂るその木を見た。 
床から生えるその木は、カウンターを巻き込んで成長していたのだ。

ドムは、その木の幹に小さな扉を見つけた。

ジジアはカウンターから腕を伸ばしそ扉を爪先で小さく叩いた。

しばらくすると木が揺れ、扉が開いたかと思うとミィクが次から次へと出てきた。

ドムは机上に集まるミィク達に近づき、目を輝かせた。

「わぁ! 仲間がいっぱい! ほらほら!」

ドムは不機嫌顔のミィクを見たが、そっぽを向いたまま興味を示さない。

「何か嬉しそうじゃないね」
「どれ」

ジジアはカウンター下からドーナツの山を取り出すとミィク達の前に置いた。
皆嬉しそうにドーナツに集まり、輪になって噛りついた。
不機嫌顔のミィクはチラリと見たが近づきはしない。

「素直じゃないなぁ」

ドムは笑ってドーナツを小さく割ると、不機嫌顔のミィクに差し出した。
不機嫌顔のミィクはドムの顔をジッと見つめ、その小さなカケラに腕を伸ばした。

ドーナツを美味しそうに食べるミィク達を見て、不機嫌顔のミィクも一口かじる。

「mmmm」

ミィクは小さな声で鳴いた。

「美味しい?」

ドムは集団ミィクの中でドーナツにあぶれていた3本触角の小さなミィクに気がついた。

「君も。こっちおいで」

小さなミィクはドムの言葉に恐る恐る近づいてきた。

小さなミィクは、ドムからドーナツのカケラを受け取ると、不機嫌顔のミィクの側に腰を下ろし一緒に食べ始めた。

ドムは笑顔でジジアを見た。

ジジアの表情も優しく、喜んでいる様に見えた。

「良かったね。お前さんにも友達が出来たぞ」

ジジアの言葉に小さなミィクは笑顔で鳴いた。

不機嫌顔のミィクは隣で美味しそうにドーナツを食べる小さなミィクを横目で見ていたが、離れる事はなかった。

ドーナツの山がなくなりかけた頃、ジジアは丸めた背中を伸ばして背伸びをした。

「さぁ、みんな、食べ終わったら手伝っておくれ。仕事だ仕事」

ジジアの言葉にミィク達は立ち上がり、行儀よくジジアの前に整列した。

つづく

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