136話 おばあちゃんと老婆
ドムは薄ぐらい王達の墓の前で「あーちゃん」という少女と出会った。少女もこの場所を知らないという。少女は鍵を持っていた。お話を聞かせてくれる「おばあちゃん」からもらったと言うその鍵は、きっと暗闇にたたずむ小屋の鍵だろうとそこへと近づいて行った。
※ ※ ※
ドムはパジャマ姿の少女と手を繋ぎ暗闇を進んで行った。
時折風が吹き、はるか上空の枝木が揺れ木漏れ日が落ちてくる。しかし、それはすぐに地面に吸収されて消えて無くなってしまった。
小屋に近づくにつれて不安が大きくなっていった。まるで自分も闇に溶けていくかの様な異様な空気に取り囲まれ、今は少女の手の温もりだけが頼りだった。
ドムは歩きながら少女に声をかけた。
「おばあちゃんにお話聞かせてもらってたの?」
「うん。夜に、時々こっそり部屋を抜け出して聞きに行ってたんだ」
少女はクスクスと笑って肩を震わせた。
「夜に? 悪い子だ〜」
「だって寝れない時ってあるでしょ? それに悪いのは私じゃないもん」
少女は楽しそうである。
「誰かに誘われたの?」
「うん。ブーが声がするって。誰かが呼んでるって言うから」
「ブー?」
「うん。私の弟だよ。生まれた時からずっと一緒なの」
ドムは少女が夢物語を話しているのだと思った。ブーとはきっと生まれた頃から一緒に過ごしている縫いぐるみか何かだろう。
子供は縫いぐるみとだって話せる事を知っていた。
「今日はブーはお留守番なの?」
「眠いんからって置いてきちゃった。だから今日は私だけおばあちゃんのお話を聞きに来たの。お話聞いてるうちにおばあちゃんの布団で寝ちゃって……」
「起きたらここに居たって訳だね」
「そう! あたり!」
ドムは少女の身に起こった不思議を理解し始めていた。ドムも今感じている不思議を少しずつ受け入れつつあった。
ドムは少女の言う「おばあちゃん」が、ここで出会った老婆と同じ人物ではないだろうか……と頭のどこかで感じていた。
つづく
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