253話 黒の王の夢
1人夢に取り残されている黒の女王・シャム。彼女を助ける為に墓守のドムは走り回っている。一方コリーとサンディは、黒の女王の体で目覚めた夢歩きのドナの話から「夢の入り口」へのヒントを見つけようとしていた。
※ ※ ※
あたり一面、本と資料の山の中でどれほどの時間立ち尽くしただろうか。
黒の王・シーカは足元に流れてきた本を拾い上げた。
そんな黒の王の横顔がふと優しくなった事にコリーは気づいた。何を手にしたのか気になってはいたが声をかける事はできなかった。
「それはなぁに?」
さっきまで大きな口を開け泣いていた黒の女王が王に近づき顔を覗き込んだ。
その表情は何にでも興味を持った子供の様に輝いていた。
姿形は黒の女王だがその中身は「夢歩きのドナ」である。その事に何も知らない黒の王は驚いた。厳格な黒の女王の違う一面がまた出てきたのか、それともこれが彼女の素顔なのか…「夢歩き」という病と戦う女王の変化に戸惑うばかりであった。
「それ、面白い?」
子供の様にはしゃぐドナに、黒の王は中を開いて見せた。
「わぁ、綺麗」
今まさに女王の夢の記録ノートを紛失し涙目になっているサンディとコリーも本の中を確認しようと遠巻きに様子を伺った。
「これ、シャムね。こっちも、あ、これも。2人も見て見て! シャムがいっぱい!」
どうやら、黒の女王をモデルにした絵がいくつも描かれている様だった。
「私は昔、画家になりたくてね」
黒の王の発言にコリーとサンディは驚いた。王は王になる事だけを考えるものだと思っていた。
「素敵ね! その夢は叶ったの?」
「いや、残念ながら」
「どうして? こんなに上手なのに」
黒の王は再び驚きの表情でドナの顔をじっと見つめた。
コリーとサンディはこんなにも表情が変化する黒の王を見た事がなかった。
「画家になる事を反対されていてね」
「誰に?」
「みんなにだよ」
「だからやめたの?」
「……そうだね。やめた」
「そっか、誰も応援してくれる人がいなかったんだね」
ドナは残念そうな表情で黒の王のスケッチした絵を見つめた。あるページで目が止まり、ドナの表情は一気に明るくなった。
「じゃぁ、今からなればいいじゃん! なれるよ!」
「今さら?」
「違う違う! 今さらじゃなくて今から!」
「今から…」
「そう! 描くことを辞めなければいつでも画家になれるじゃない」
ドナの言葉に黒の王は複雑な表情をみせた。素直に喜べないのはもう随分と大人の時間を過ごしてきてしまったからなのだろう。
ドナはふと、何かが気になり何度もその絵を見返した。そして思い出した。
「ここだ! ここ! ここでシャムといつも一緒に遊んだの!」
そう言って見せたそこには井戸の前で微笑む若いシャム女王の姿が描かれていた。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?