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265話 幽霊の正体
夢の中に取り残されている黒の女王・シャム。彼女を助ける為に墓守のドムは走り回っていた。一方ドムの兄・ドミノも黒の国へ訪れたのには理由があった。ドミノ、シイナ、そして護衛の明(あかり)は夢の中で集めた夢のカケラにあった鍵穴に合う鍵を求めて黒の国の「鍵屋」の屋敷を訪ねていた。
※ ※ ※
部屋にドミノ達を残して鍵屋の娘・セシルは屋敷の隅っこにある自室へとやってきた。部屋に入り真っ直ぐに戸棚へ向かうと、引き出しに手を伸ばしてピタリと動きを止めた。
その手は小さく震えていた。
「大丈夫。大丈夫……」
そう言って戸棚を静かに開けると、洋服の間から古い写真たてを取り出した。
そこにはセシルともう1人似た顔の少年が寄り添って映っていた。
セシルの兄・サクの写真はこれが最後になってしまった。
「見てなさい。お兄様がいなくても私……」
その続きの言葉はとても小さく音にはならなかった。
セシルの表情は誰にも見せた事のないほど悲しさを含んでいた。
「よしっ!」
セシルは両手で頬を叩くと写真たての中から古ぼけた写真を取り出し、洋服のポケットの奥へとしまい込んだ。
「お兄様も一緒に来てもらうわよ」
そう言ってセシルは再び部屋を飛び出し長い廊下を走っていった。
ドミノ達が通ってきた玄関とは違い、職人だけが使用する戸口で鍵屋のメンツは待っていた。
「おい、遅いぞ。客人など他の奴らに任せておけ」
そう言ったのは青白い顔の老人だった。
「お爺さまが生きていた頃より使用人はうんと少なくなったんです」
「何だと? ワシはまだ死んではおらんぞっ!」
そう言って濁った目は無数の皺の中に埋もれてしまった。
「そうね。ほら、行くわよ」
「人の話はちゃんと聞け!」
「行きながらいくらでも聞くわよ。ほら、お父様は鍵を。ジョウとロックは工具を」
テキパキと指示をしていくセシルの周りを青白い顔の老人は行ったり来たりと執拗に絡んでいく。
セシルの父とその弟子2人のジョウとロックは、言い合っている少女と老人の後ろを困惑しながらついていく。途中、ボトリと何かが落ちる音がして一同は音の正体に視線を向けた。
「ほら、お爺さま。腕が片方落ちてるわよ。ご自慢の腕なんでしょ? しかっかり付けててよね」
そう言ってセシルは落ちた腕を気味悪がる事なく拾い上げ老人の腕へと差し込んだ。
この青白い老人はセシルの祖父。
壁一面の家系図で「幽霊みたい」と言われ顔が消えかかかったその人物だった。
「こんな状態になっても生きてるなんて。ほんとお爺様って幽霊より幽霊らしいわ」
「うるさい。お前らに鍵屋を任せられんからこうして延命して生きてるんだろ。体の寿命はとっくに来てるが心はまだまだ死んではおらん」
「人はね、体の寿命がきたら潔く魂も解放するの。お爺さまが執着してるのは体じゃなくて名誉でしょ?」
そう言って1人歩き出したセシルを追って一同は部屋を移動し出した。
「待たんか! お前は女のくせに偉そうに! 少しはおしとやかにできんのか!」
「あーもう、うるさいわね!」
セシルは続きの言葉を言いかけてやめた。いつもこの言い合いには答えがない。
長い廊下を歩きながら、セシルは急に客人達を屋敷に残す不安に包まれた。
つづく
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