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258話 霧の中の目印

夢の中に取り残されている黒の女王・シャム。彼女を助ける為に墓守のドムは走り回っていた。一方ドムの兄・ドミノそしてシイナ・護衛の明(あかり)も黒の国へ。集めた夢のカケラの1つに鍵穴があるものがあったのだ。その秘密を探るべく黒の国に住む「鍵屋」を訪ねてやっきた。


※ ※ ※

ドミノ達は手元で揺れるランプを見つめながら暗い道を歩いていた。
黒の国は日が登っても地上までその光が届くことはない。国を動かす工場や地下から昇る蒸気で空に厚い雲がかかったまま何年もこの様な生活を繰り返している。

「た、太陽の光をみれるのは上層部の人間だけなんです」

ドミノの前を歩いていたシイナがそう言った。
顔を上げたドミノの前に急に大きな黒いビル群が現れた。
こんなに大きな建物が目の前に来るまでどうして気づかなかったのか…ドミノは振り返って理解した。

「これでは道案内が必要な訳ですね」

歩いてきた道は、あちこちから昇る蒸気で隠され霧の中に消えてしまっていた。
ドミノの後ろには護衛の明(あかり)が背後を気にしながら歩いていた。

「どうしましたか?」

「いや、さっきから気配がして」

明は遠くに聞こえていた足音が遠のいていった事に肩を抜いたが表情は険しいままだった。

「き、今日はいつもより霧が濃いので道に迷う方も多いのかも。も、もう少しで着きます」

そう言ってシイナは迷う事なくビル群の中へと足を向けた。ドミノはシイナからはぐれないよう後を追いながら声をかけた。

「シイナはどうして道に迷わないのですか?」

「ま、迷いますよ?」

「え? ……もしかして今も迷ってるとか」

「す、少しだけ。で、でも、目印があれば少しぐらい迷っても平気なんです」

「目印? この濃い霧の中では遠くの景色もあてにならないのでは?」

ドミノは目の前のビル群が少し霞かかっている事に驚きながら遠くを見つめた。

「と、遠くはあにならないですよ。すぐ見失っちゃいます」

「では、何を頼りに?」

「こ、ここです」

そう言ってシイナは立ち止まりしゃがみ込んで地面を指さした。
ドミノはシイナの隣に腰を下ろしてその指差す地面に目を向けた。
ランプに照らされた地面には煉瓦が様々な方向を向いて組まれており、思ったよりもデコボコしている事に気がついた。

「面白いですね。いろんな組み合わせがある」

「そ、そうなんです。この煉瓦が目印なんです」

そう言ってシイナは立ち上がると、手にあるランプで地面を照らしながら笑顔で歩きだした。

「こ、この煉瓦は職人が一つ一つ計算してはめこんだって聞いてます。に、西は横向き、東は縦向きってな感じで」

「でもここは色々な方向を向いてるね」

明も煉瓦の模様に視線を落としてついてくる。

「そ、それはもう少しで住宅地に戻るって意味なんです。い、1番人が通るからすり減るのも多くて。こ、壊れた所から新しい煉瓦をはめ込むからこんな形に」

そう言っていると、煉瓦の模様が再び規律正しい斜め模様へと変化した。

「あ、住宅街に入りました」

そう言って顔を上げたシイナは笑顔になった。
ドミノと明も顔を上げると、いつの間にか景色が変わっている事に驚いた。
住宅街のビル群の中に入っていたのだ。

「あ、あとは、建物の番地を追っていけばお嬢様の家までたどり着けます。道に迷ったら遠くじゃなくて、足元を見れば大丈夫なんです」

ドミノはシイナの笑顔を見つめ、自分も迷った時はシイナの言葉を思い出そうと心に刻んで微笑み返した。


つづく

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