263話 鍵屋の家系図
夢の中に取り残されている黒の女王・シャム。彼女を助ける為に墓守のドムは走り回っていた。一方ドムの兄・ドミノも黒の国へ訪れたのには意味があった。ドミノ、シイナ、そして護衛の明(あかり)は夢の中で集めた夢のカケラにあった鍵穴に合う鍵を求めて黒の国の「鍵屋」の屋敷を訪ねていた。
※ ※ ※
黒の国は技術者が多く集まってくる。先進国として世界から注目を集めていたが、国王の性格からかどこか閉鎖的な環境でその技術が外の国へと発展しなかった。
黒の国王は国に貢献した者を全て家族と称し国王と同じ「SI」の称号を与える。
その名を名乗れる者は国の一角に建てられた黒いビル群の上級階に住む事を許され地上近くに住む人達とは格の違う生活をしていた。
それがステータスと言わんばかりに威張る者もいた。
しかし、黒の国王は称号を与えもするが簡単に剥奪もする。国の発展に貢献し続けるものだけが名乗れる名前であって、おんぶに抱っこの状態を続ける者には容赦なかった。
非情と言われるのはここにも通じるものがあった。
「鍵屋」と言われる者達は昔から「夢の入り口の扉に付ける鍵」を作っていた。
その技術は代々受け継がれ、その取り付け位置や方法なども「口頭」のみで伝えられ決して資料として残っていなかった。
※
「随分古い家柄なんですね」
屋敷に取り残されたドミノは、もはや部屋の壁紙と一体化した家族絵を見つけ声にした。
その絵は壁の上部にいる男女2人から始まり、枝分かれをして下へ下へと広がっている。
「こ、これはこの屋敷の家系図です。お、お嬢様はここに」
そう言ってシイナは壁に近づき足元の小さな少女の絵を笑顔で見つめた。
鍵屋の娘・セシルの幼少期の顔が描かれていた。
ふわりと長い黒髪は、この頃からの魅力だったようだ。
「ここの人、顔が無いけど?」
明は家系図の下段にある人物を指差した。
ドミノも壁一面の家系図に違和感を覚え近づき見上げた。
「ここから家系が一気に細くなっていますね。ちょうどセシルさんのお爺さまの所から」
「は、はい。と、とても仕事熱心な方でして……」
ドミノはシイナの言葉が気になった。それはまるでまだ生きている様な言い方だ。
そこから伸びる線はとてもシンプルでまっすぐとセシルにまで続いていた。
「何か顔がぼやけてない? まるで……」
明の言葉にシイナは言葉を続けた。
「ゆ、幽霊みたい」
「そう、それ!」
そう言ってシイナは困り顔で家系図を見上げた。
「ま、まぁ実際に幽霊と言われている人ですから…」
その先の言葉をシイナは口にしなかった。
急に訪れた静けさにドミノと明は背筋に冷たいものを感じた。
つづく
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