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210話 黒の女王・シャム

黒の国にやってきた新人墓守のドム。そこには病で倒れた黒の女王を救おうと沢山の人が募っていた。そこでのドムは異質な存在。ドムは黒の王に呼ばれ、女王の部屋へと足を踏み入れた。


※ ※ ※

ここにいる者達は全員ドムに鋭い視線を向けていた。
それは墓守だからではない。部屋に入る者として選ばれた嫉妬であった。

部屋の重い扉が閉まると同時に静寂が訪れた。

壁は全て本棚であり、ありとあらゆる本が並んでいた。ドムの手元近くの本は子供が読む絵本の様に見える。

この場所は世界の中心で行われた8人会議の部屋によく似ているとドムは思った。
あそこにあったのは数々の「箱」だったが…。

思ったより明るい室内には、豪華なベッドが1つ置かれていた。
天井から吊り下げられたレースにベッド上の人物の姿は隠され、大切に守られている。

「診断はどうだ」

黒の王・シーカはベッドの脇で診察していた女医のサンディに声をかけた。

「いつもと変わらず」

小声で話しているつもりだが、酒場「ヤミゾコ」の女亭主・大声のヒラリの娘だけあってその声は部屋の隅にいたドムにも届いた。

「夢は」

「見た、と。今診断しております」

そう言ってサンディは壁に沿って歩き、次々と本を取り出しそれを開いて何かを探し始めた。

「客か?」

少しかすれた弱々しい女性の冷たい声が聞こえた。
その声の主が黒の女王のものだとドムはすぐに分かった。
病人の声には張りが無い。今にも途切れそうなその呼吸に乗せて発せられた言葉だった。

ドムは、吸い寄せられるようにその人物の元へと近づいた。

「初めまして……こんばんは」

ドムは黒の王の後ろから少しだけ顔を覗かせ、黒の女王に声をかけた。

「!」

ドムに顔を向けたのは鼻先をツンと上げた女性だった。
眠っているのだろうか?
その目は閉じたままである。

「!」

天井から吊られたレースは、中の物を守っているのでなく隠していたのだとドムは理解した。

そこにいたのは、閉じたままの目から涙を次々と流し顔を腫らした黒の女王。
冷酷非情と恐れられる彼女の頭はボサボサで、美しさとはかけ離れており老婆の様に萎んでいた。

つづく

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