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【中学受験】夏の成果は9月に出ないのか?

 『2月の勝者』で、「夏の成果は9月には出ません」という描写が描かれて以降、そういう考え方が浸透しているようなのですが、今回はそのことについて記事を書こうと思います。

 さて、結論から申し上げると「夏の成果は9月には出ません」というのは、現場感覚では「?」という印象です。この業界に10年以上いますが『2月の勝者』で初めて聞いた話で、その描写が描かれるまでに、そんなことを一度も考えたことがありませんでした。
 それも当然の話で、模試の偏差値は所詮その模試での順位を見やすくしたものでしかありません。順位が上がった子がいれば、当然下がった子もいるので、数値上で一方的な傾向になるはずがないのです。
 大手学習塾に勤めていた時代の個人的な経験で言えば、夏休みを正しく過ごしていた子は劇的に成績を上げていたように思います。その意味で、夏休みは一つのターニングポイントで、その成果はわりとはっきりと夏休み明けに出ていた気がします。
 頑張った子は頑張ったなりの結果が、頑張らなかった子はそれなりの結果になっていた記憶しかありません。たまに、大コケする子もいたと思いますが、それが一般化されるような印象を持つことはありませんでした。それは先に申し上げた通り、数値上当然の話で、成績が上がるも下がるも、どちらとも「予想通り」の方が目に付いていたものです。ゆえに、『2月の勝者』で、この描写を読んだ時、「リアルな営業トークを描いているな」と感じたものです。

 というのも、6年生の夏期明けは、学習塾側からすると、ほぼ最後の転塾のリスクがある時期です。そこさえ乗り切れば、ほぼ受験まで転塾されてしまうことはありません。9月の模試は、その転塾のきっかけになりうるので、「夏の成果は9月には出ませんよ~」とアナウンスをしておくことはビジネス戦略になるわけです。
 そういうリアルを描いているのだと解釈していたのですが、その後にこの描写が定説のように語られているのを目にすることが増えたので驚いています。

 とはいえ、「出ない」とは言えないものの「出ていない」と感じやすいのが6年9月の模試ではあるとは思いますので、その点について少し考察したいと思います。

1.期待値が高い

 夏休みは長く、6年生にもなると、ほとんどの子が長い時間勉強しています。そのため、「今まで以上に頑張って勉強しているのだから…」と、それまでよりも期待が高まるはずです。それゆえに、成績が上がらないと「成果が出なかった」という落胆も大きくなるのでしょう。特に、それまで頑張っていなかった子になればなるほど、その反動で「これほど頑張ったんだから…」と思い込みやすいはずです。
 そもそも偏差値は相対評価なので、維持が出来ていれば「皆と一緒に成長している」というだけです。平均回帰の法則にしたがえば、上下±5くらいは誤差の範囲内でしょう。しかし、「夏休み」という期間が期待値を高めてしまうがために「成果が出ていない」と感じやすくさせてしまうことはあると思います。

2.他塾の模試を受け始める

 模試主催塾はその範疇に入らないと思いますが、自塾で模試を主催していない学習塾の子は、6年の9月から本格的に他塾の実力模試を受け始めることもあると思います。その時に、その模試の偏差値に慣れていないということもあると思います。それが期待値と相まって誤解を生むケースもあるでしょう。

 受験生と模試には、少なからず相性があり、その子が結果を出しやすい模試というようなものがあるように思います。また、その夏を模試主催塾のテキストで勉強し続けた子は、少なからず有利が発生しているようにも思われます。

そういった傾向から考えると、後期に慣れていない模試を受け始める学習塾の子は、思っていたものとは違う結果になりやすいですし、まだ感覚が掴めていない中で期待値が高まる時期なので、「成果が出ていない」と感じやすいとは思います。

 以上に2点において、6年9月の模試では「成果が出ていない」と感じやすいと考えます。
 だからこそ、殊更に気にする必要は無いと考えています。9月の模試も12月の模試も、所詮模試に過ぎません。ただ、第一志望の学校の合格に向けて、粛々と歩みを進めていけば問題ありません。その中で、模試の結果を必要以上に気にする方が、かえって躓くきっかけになるかもしれないものです。

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