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【短編恋愛小説】牛臥海岸の潮風に揺られて②ドライブ

牛臥海岸の潮風に揺られて
目次
1僕たちの青春
2ドライブ
3散歩コース
4久しぶりの外出
5牛臥海岸の潮風に揺られて

2ドライブ
「なんか退屈だよね。こういう飲み会。」
金髪のロングヘアーの彼女は、正面に座る僕に向かって、気だるそうに、タバコの煙をぶつけた。
居酒屋でバイトをしていた僕は、この春をもって退社することになっていた。
今日は、僕を含めた3人の送別会に参加していた。
この煙を人に吹きかけてきた非常識な女性は、店長の親友でお店の常連客の石井さんの彼女らしい。
金髪で、少し重たい奥二重が印象的で、お世辞にもきれいとは言えないが、独特の雰囲気がとても魅力的に感じた。
しかし、所詮は石井さんなんかと付き合っている女。
僕は石井さんが嫌いだった。
いや、僕だけじゃなくて店長以外全員が苦手としていた。
店長の親友ということを盾にして、混む時間帯に来店して偉そうにしたり、閉め作業が始まったころに来ては、ラストオーダーを無視して注文を始める。
そんな男の彼女ということで、飲み会が始まる前にはこの人に関わらないようにしていた。
しかし、なんてことか、僕の真ん前の席に来てしまったのだ。
まあ。石井さんの顔を見るよりはいいかと自分を納得させる。
石井さんは急用ができて1次会はこれなくなったらしい。
そもそもの話は、部外者が送別会に来るなというのが正直な所だが、店長が呼ぶのだからしょうがない。
この彼女も彼女で、送迎される人に向かって、退屈っていうのもどうなの?と思ったがそれは言わなかった。
今日はお店が定休日に開催したので、社員バイト16人全員が参加していた。
この規模の飲み会だといつの間にかテーブルごとに会話が始まる。
僕が座るテーブルの隣が店長や社員ということもあり、僕の隣と斜向かいの女子たちは完全にそっちの会話に入っていった。
一番端っこに座った僕と彼女は完全にこの場で浮いているのだ。

「君はまだ大学2年生だよね?なんでバイト辞めるの?」
石井さんの彼女は、僕に問いかける。
「来年からゼミが本格的に始まるので、少しバイトと時間が合わなくなりそうなんですよ。」
「ふーん。そうなんだ。」
特に興味がなさそうにタバコを吐きながら頷く。
「石井さんの彼女さんは何されているんですか?」
興味はないが、それ以上に白けた空気になるのが嫌だった。
「フリーター。私、佐々木ね。」
「あ、まみちゃんでもいいよ♪」
いきなりのテンションの変化に驚きながらも
「じゃあまみさんで。今日は石井さん来ないんですか?」
「なんか、急用らしいよ、どうせ浮気だろうけど。」
笑ってはいるが、心なしか哀愁を感じた。
「そうなんですか。石井さんならやりかねないですね!」
「まあそんなやつだよ、あいつは。」
「そんな奴と思っていましたが、彼女さんにも嫌な奴なんですね。」
「君結構言うんだね。常連客の彼女にそんな強く言うなんて。あ、でも辞めるのか。」
ケラケラ笑いながらタバコを吸う。タバコの灰が灰皿に落ちる。
「僕は吉奈といいます。」
「健君でもいいですけど!」
先ほど言われたように言い返す。
「なにお前!うけるんだけど!じゃあヨッシーって呼ぶわ。」
まみは紙タバコを灰皿に潰すと顔を耳元に寄せる。
「ねえ、ここつまんないし抜け出さない?」
ハスキーな声と、甘ったるい香水の匂いが耳と鼻を通して僕の体内へ入ってくる。
それと共に、僕の心臓をつついているのか鼓動が早くなる。
「僕彼女いるんで。そういうのはちょっと。」
本当は彼女はいないが、舐められたくないと謎の見栄を張った。
「ヨッシー本当に面白いんだけど!私に彼氏いるの知ってんじゃん!そもそもお前なんか食うかよ!」
言葉と同時に頭を叩く。
結構強めだったが、なぜだか不快感を感じなかった。
「シンプルにここつまんなくない?店長いるから石井の悪口言えないし。とりあえず少ししたらあんた店出てよ」
「一応主役だし無理なんじゃないですか?」
「普通主役は一番端っこに座らないから、明日の大学の準備とか言えば帰れるよ。なんか君浮いてるし。少ししたら私も適当に出るから駅前で待ってて。」
薄々気がついていたことだが、人に言われると結構ショックだ。
僕はこの職場では馴染めなかったのだ。
無神経に感じたが、アルコールのせいか、その無神経さもなんか心地よく感じる。
「わかりました。じゃあトイレ行くので帰ってきたら店長に言いますね。」
そのままトイレに行き、その足で店長の隣に着いた。
「店長、実は明日大学の発表会があって、送迎会を開いてもらったのに先に帰らせてもらっていいですか?」
「まじか!そうかそうか。吉奈君、今までありがとうね。たまには客として顔出してくれよ!」
そう言って背中を叩くと、元々の会話の中に戻っていった。
まみの方をみるとくすくす笑っている。
自分の席に戻り、荷物を持ち、
「皆さんお疲れさまでした!ありがとうございました!」
割と大声で言ったがみんな特に気にもせず、適当な感じに見送られた。
居酒屋を出て、そのまま駅に向かう。3分ほど歩くとロータリーに着いた。
コンビニでチューハイを買い、駅前の花壇に腰をかける。
ちょうど飲み終わるくらいにまみは笑いながらやってきた。
「ヨッシー全然みんなに好かれてないじゃん!よし!二次会しよう!ヨッシーの家行こう!」
「いいっすよ。一人暮らしなんで!ガンガン飲むぞ!」
いつもだったら断っていただろう。相手は彼氏持ちだし。
しかし、元バイト先へのもやもやと、まみのオシの強さに乗っかる形で自分の家へと招いてしまった。

目を覚ますと、隣には部屋着を着ている金髪の女性が寝ている。
シングルベッドなので、顔の距離が近い。
「ん?もう朝?あ、ヨッシー起きてたの?」
「はい。今起きました。」
「昨日のこと覚えてる?」
「僕の家に着いたあたりから記憶がないです。」
まみは笑いながら机にあるペットボトルに手を伸ばす。
「私達しちゃったよ。」
「え!自分、襲われたんですか?」
「ふざけんな!私のセリフだわ!ヨッシーまじ面白いわ!」
まみは笑いながらペットボトルを戻す。
「本当に記憶なくて。」
「石井に言っていい?」
「だめです。」
「じゃあ、私の言う事聞いて?」
「揺するんですか?」
「うん。揺する。ドライブ連れてってよ!」
ドライブ?僕が車を持ってる話をしたっけ?全く記憶がない。
神奈川の一人暮らしする大学生は車を保有しないケースが多い。
だが、昔から車が好きな僕は、高校卒業と同時に車を買っていたのだった。
「ドライブくらいならいいですけど、どこに行きますか?」
うーん、、まみはスマホをいじっている。目的地を探しているのだろうか。
「じゃあ沼津!」
「沼津?静岡の?何でそんなところに?」
「川崎ICから乗れば2時間位で着くから!距離的にちょうどよくない?」
「まあ、、そうですね。」
「けってー!今日の夜ね!私もう少し寝るから。」
そのまま寝転んだかと思うと、すぐにすやすやと寝息を立てた。
時計を見ると午前11時になったばかりだった。

「はっ」
西日の暑さに目が覚ました。時計を見ると17:00になっている。
3月はまだまだ日が短い。
「まみさん、起きてください。」
彼女の肩を揺らすと、Tシャツの下から彼女のぬくもりを感じる。
僕はこの人としちゃったのか。石井の彼女と。なんだか急に怖くなってきた。
「喉乾いた、水」
言われた通りテーブルの上にあるペットボトルを渡す。
「はー、生き返った!んーー!」
伸びをすると引き締まったお腹が見え隠れする。
「じゃあ行きますか!」
「え!化粧とかしなくていいんですか?」
「10分で終わるからちと待ってて」
そう言うとテキパキと動き始めると、本当に10分で化粧や身支度を終わらせた。
アパートから出て、少し歩いたところにある駐車場へ向かった。
「じゃあいきますか!音楽私のつけていい?」
まみはBluetoothを繋ぎ、音楽をかける。
「あ。車内で電子タバコ吸っていい?」
「いいですよ。」
ありがとうと言うと、機械にタバコをはめ込む。
少しすると、長く吸い込みスパーと吐く。
「あーーー、生き返る。」
汗をかいた後に生ビールを飲むのと同じような感じなんだろうな。
タバコを吸わないため、長時間ぶりに吸うタバコの味は理解できないが、勝手に推測した。

「歌うぞ!!」
1本吸い終えるといきなり大声を出して歌い始めた。
ヨッシーも歌えよと煽られて渋々歌う。
最初は嫌々だったが、だんだん声が出るようになった。
まみは乗せるのもとてもうまい。
元々歌うのが苦手でカラオケを断ってきた人生だが、彼女となら行ってみたいと思えた。

「あれ、もう御殿場だって。沼津まで15分くらいだ。」
歌っているとあっと言う間だ。時計を見ると出発から2時間も過ぎている。
沼津インターチェンジを出ると、そこは標高が高く、沼津の街を一望できた。
「夜景がきれい!」
「ね!きれい!この後どうします?」
「とりあえず下に降りてみよう!」
ICを道なりに降りていくとそのまま大きな通りに合流した。
混んでないため、ゆったりと車を動かす。大きな通りには、左右に飲食店が並んでいた。
「あ、なんか桜エビかき揚げだって!ここ行こ!」
交通量が少なかったので、瞬時に左レーンに入ることができた。
「じゃあ、蕎麦食いながらどこ行くか決めよっか。」
駐車が済み車から出たが本当に入る?と言いたくなるほどのハズレの店の雰囲気があった。
店の前の券売機はボロボロでボタンの文字が霞んでいる。
そして、店内の机は古く、客が誰もいなかった。
しかし、まみの楽しそうな顔を見ていると水を差すようで言えなかった。
桜エビのかき揚げそばを2人前頼む。
客がいないのであっと言う間に蕎麦がきた。
湯気が出る暖かい蕎麦を二人ですする。
うまい!今日初めての食事は疲れた胃に優しい味だった。
桜エビが口の中でカリカリとぶつかりたまーに痛いが、それ以上に美味しい。
結局汁まで飲み干してしまった。
「ねえ、この後なんだけど、ここいかない?」
まみのスマホには、星評価4.9のラブホテルが。
よく見ると、スマホには【ラブホ 沼津】と検索されていて、マップ上にはインターチェンジ付近に多く分布していた。この辺はラブホ街なんだろうか?
「いやいやいやいや。だめでしょ。彼氏いるじゃん!」
「え、昨日言ったじゃん。別れるって。」
「そうなんですか?すみません。記憶がなくて。」
「だめ?」
最初の印象は良くなかったが、今ではむしろ好きと言ってもいいほど魅力的に感じている。
「わかった。」
「決まり!じゃあ行こ!」
まみは食器を片付けに立ち上がる。
僕は下半身が熱いのがわかったため、ポジションを直してから席を立った。

朝起きると、今日は彼女は紙タバコを吸っていた。
「おはよー!やっぱり寝起きのタバコは美味しいわー。」
タバコを灰皿に潰す。
「今回は確信犯だね。」
まみはニヤニヤしながら僕を見つめる。
受け答えに困っていると、僕の方に寄ってきて、キスをしてくる。
僕たちは目を見つめ合ってまさぐり合った。

そのまま寝てしまったのだろう。時刻は、9:19になっていた。
「今日この後どうします?沼津は港の方が栄えてるらしいですよ?」
「あ!今日はシフトだった!13:00から!!」
「え!仕事なんですか!じゃあ帰らなきゃ!」
慌ててチェックアウトをして、車に乗り込む。
「沼津観光できなかったですね。また今度来ましょう。」
「ん?何々?また今度?」
意地悪な言葉と、上目遣いで笑ってくる彼女に顔が赤くなる。
「でもヨッシーとならいいよ!でも沼津以外も行きたいな!」
帰りは、まみが寝てしまったので、行きとは打って変わって音楽を静かに聴きながら帰った。
本当はもっとまみのことを聞きたかった。
なんで、石井と付き合ったのかとか。
趣味とか。年齢とか。
そして、、、僕をどう思っているのかとか。

12時に僕の家に着くと、まみは電車で自分の家に帰っていった。
家まで送ると言ったが、頑なに断られたのでそれ以上は踏み込まないことにした。

それからは華やかな日々の連続だった。
週に2~3回のペースで遊んだ。
居酒屋だけの日もあれば、僕の家に来るときも。
もちろんドライブもした。千葉や茨城、埼玉と色んな所に。
そして、季節はいつの間にか、梅雨を開け、初夏になるところだった。
【久しぶりに今日夜、沼津に行かない?】
大学のお昼休憩中に、まみからメッセージが来ていた。
【いいね!じゃあ19:00に家集合でいい?】
【オーケー】
今日もまみと会える。
それだけで午後も乗り越えられる。
久しぶりの沼津か。あれから2ヶ月も経つもんな。
あの日の帰りに、聞けなかったことはほとんど聞けた。
石井とは、ナンパで付き合ったとか。趣味は意外にも読書とか。金髪だったため、若いと思っていたら実は28歳だったとか。
ただ、僕のことをどう思っているか。それだけは聞けなかった。
あれからも体の関係はあったがそこだけは聞けなかった。
何かが壊れるのを恐れて。

「待った?」
彼女は、19:10頃僕の家に着いた。
「全然!じゃあ行こうか!」
車に乗ると、いつものように音楽を繋ぐ。
初めて行った時と同じように、バカ騒ぎをしながら沼津まで向かった。
2時間かかるはずだが、楽しい時間は一瞬に感じる。インターチェンジを降りる時、
「今回もまたあの蕎麦行きたい!」
まみはあの店が気に入ったようだ。
「いいね!でももう暑いから今日は冷たいのにしようかな!」
なんてことのない会話だがそれが楽しかった。
蕎麦屋は今回も店内にお客さんはいなかった。
まみは悩んだ末、旋回と同じものを。
そして、僕はシラスのかき揚げとざるそばにした。
残り半分になると、シェアをして評論しあった。
「じゃあ、今日も前と同じところに泊まって明日観光しない?」
「ぐいぐい来ますね~。最初はうぶだったのに!まあ、いいけど。」
まみのこの意地悪で上目遣いな笑顔にも見慣れて可愛らしく見えてきた。
「着いた~!」
まみはベッドにダイブして、そのまま紙タバコに火をつける。
「まみさん、聞きたいことがあるですけど、」
「何?」
「まみさんから見て僕ってどういう存在?」
上体を起こし、机にある灰皿に、タバコを置く。
「ねえ、ヨッシー、実は私も今日は言わないといけないことがあって。」
まみは廊下側で立っている僕の目を見る。
「ヨッシーの質問に答えるのと、私の言いたいことどっちから聞きたい?」
さっき見慣れたと思っていた、彼女の笑顔がいきなり怖く感じた。

「じゃあ、まみさんの言いたいことから聞きます。」
「わかった。色々考えたんだけど、君との関係性を終わらせたい。」
「え。どういうことですか?」
「もう会わないってこと。」
「それは、、、なんでですか?」
「石井とやり直すことにしたの。」
「え。」
まみの言うことを理解できなかった。
「わけわかんないです。あいつのこと無理って言ってたじゃないですか!」
「うん、でも気が変わったの。ごめんね。」
僕は何も答えることができなかった。
「次にヨッシーの質問に答えるね。ヨッシーは好きになりかけて、好きになれなかった人。でも嫌いってわけじゃない、むしろ大好き。」
「矛盾しているじゃないですか。大好きって。」
「ヨッシーさ、私が何歳か覚えてる?」
「28歳です。」
「正解、でも厳密には11月で29歳になる。君は今年21歳でしょ?私とすぐに結婚できる?」
「・・・できます。」
「でも、私と結婚したら多分あなたの両親は怒るよ?高い学費出してもらって大学行かせたのにって。それに結婚したら大学はやめるの?仕事は?」
答えたいが言葉が出てこない。
「タイミングが合わないってとこなんだよ。でもしょうがないこと。」
「でも、、それだけなんですか?それ以外は大好きなんですか?石井より勝ってますか?」
「付き合ったらどうなるかはわからないけど。今のところは。」
「じゃあ、明日最後に沼津デートして下さい!それで、その。もしも、大好きがまみさんがいう、タイミングに勝ったら付き合って下さい。」
まみはすぐに答えなかった。何かを言いたそうにして口を閉じた。
そして、数秒してから、
「わかった。」
それだけ言った。

珍しく二人は朝早くに起きた。
昨晩はすぐに寝たからだろう。

「ねえ、見て!きれい!」
車を走らせてみてすぐに気が付いた。
前回このホテルに来たときは、夜に来て、急いで帰ったため外を見ている余裕がなかった。
実は、このホテル付近からは、沼津の街と駿河湾を一望できるのであった。
「前回はなんで気が付かなかったんだろう!」
昨夜に比べて二人はテンションが高い。
今日が最後になるかもしれないと、お互いに気を使っていた。
「【沼津 観光】で調べると沼津港がよく出てくる!ここに行こうか!」
まみの提案に、車を沼津港方面に走らせた。
ホテルから沼津市街がある方に下っていく。沼津駅を通り過ぎてから沼津港はあっというまだった。
休日ということもあり、沼津港は想像以上に混んでいた。
駐車場に車を置くと、まずは腹ごしらえに、海鮮丼を食べる。生しらすや中トロ、アジなど新鮮な海の幸が口の中に広がる。
その後は、水族館に行き、アイスを食べながらお土産を物色した。
なんだかんだで、時刻は15:00ごろになっていた。
「ねえ、ヨッシー、最後にここいかない?」
まみはスマホを見せる。
「うし、ぎゅう?なんて読むんだうしなんだか公園?」
「牛臥山公園(うしぶせやまこうえん)って読むらしいよ!」
レビューも見せてくれた。
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★4.3
標高70mほどの小さな山だが、駿河湾が一望できデートスポットにピッタリ。
ゆっくりとお話を楽しみたい人におすすめ!
(ペットも入園可能)
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「星評価も高いし、ここから5分くらいか、、、行ってみますか!」
沼津港を出ると、大きな橋を超える。その後は一本道で公園に着くようだ。
一本道は少しでこぼこしていて道が狭い。
「なんか道路狭いね。事故注意とかいっぱい書いてある。」
「こんなところでもスピード出したり飛ばす人がいるんだろうな。呆れるよ本当に。あ、ここかな?ここだ!」
公園の駐車場はそれまで通ってきた道路からは想像もつかないくらい、しっかり整備されていた。
車から降りると、目の前には駿河湾が広がっていた。
公園に入ってすぐのベンチに、二人の老人とフレンチブルドッグを連れた若者が談笑している。
ベンチの向こうは、真ん中に芝生が生い茂り、芝生を囲うように、道がコンクリートで幅塗装されていた。
「すみませーん!展望台ってどこですか?」
まみがベンチの方に行き、3人に声をかける。仲良さそうに話をしている。
話し終わったのか、僕の方に戻ってきて、
「ヨッシー!この道に沿ってあっち行けばいいって!」
道の先を指さす。
ベンチを通り過ぎる時、3人に会釈をすると
「カップルさん、楽しいんで言ってね!」
「はは。」
作り笑いをする。・・・カップルになれるといいんだが。

ゆっくりと整備された道を歩きながら、展望台に向かう。
展望台からは駿河湾を一望できた。
「きれい」
自然とこぼれた。
「そうだね。」
そのまま会話も生まれないまま海を見続けた。
潮風がだんだんと強くなる。
「帰ろっか。」
「うん。」
時刻は17:00になろうかという所だった。
公園から車を出しても沈黙は続いた。
「今日はありがとう。」
まみから切り出した。
「こちらこそ。」
これで終わりだろうな。
直感がそう言っている。

その後も会話が生まれないまま、行きで来た道を帰っていく。
「ヨッシー、これ以上いるとお互い悲しくなるからさ、ここで降ろして?ここから沼津駅まで5分くらいみたいだし。このまま直進で駅まで行けるみたいだから。」
「・・・せめて最後は駅まで送らせてよ。」
我慢ができなかった。涙がこぼれる。
「うん。」
窓を見ながらまみは頷いた。
無言のまま、沼津駅のロータリーに着く。
「やっぱりダメってことだよね?」
何かに期待した。無理だと思っていても。
「ごめんね。」
まみは、笑った。
「じゃあ、行くね。今までありがとう。」
まみは車から飛び降りるとこちらを振り向かず、駅の方へと向かっていく。
助手席には、電子タバコが置いてある。忘れたのだろう。
「まみさん!タバコ!」
僕の声は聞こえないようだ。
あんなヘビースモーカーなのにタバコがなくて大丈夫かな?
でも、電車に乗るから吸えないか。
しかし、何が良くてこんなの吸うんだろ。
試しに、電子タバコを吸ってみることにした。

「おえ。まっず。何が良くて吸ってんだよ。こんなの。」

あ。

自分で言ってから初めて気づいた。
彼女が、電子タバコを吸っているのは僕の車に乗るときだけだと。
それ以外では紙タバコを吸っていることを。

「気を遣わせちゃってたんだよな。言ってくれればよかったのに。」
呆れて笑ってしまう。
電子タバコをごみ袋に捨て、止まらぬ涙をそのままに、東名高速道路に向け走り出した。

3話は7/21の18:00に公開予定です!

1僕たちの青春

3散歩コース

4久しぶりの外出

5牛臥海岸の潮風に揺られて

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