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【短編恋愛小説】牛臥海岸の潮風に揺られて 最終話

牛臥海岸の潮風に揺られて
目次
1僕たちの青春
2ドライブ
3散歩コース
4久しぶりの外出
5牛臥海岸の潮風に揺られて

5牛臥海岸の潮風に揺られて
気が付くと砂埃が舞い上がるグラウンドの真ん中にただ一人立っていた。
制服も着ているし、グラウンドに誰もいない。
体育の時間というわけではなさそうだ。
じゃあ、何でここにいるんだ?

とりあえず自分の教室に行ってみることにした。
「あれ?3年A組って33人だったよな?」
数えても数えても教室には28人分の机しかない。
教室に座っている人は誰も知らない。
「あのー。僕の机ってありますか?」
僕の問いに誰も反応しない。
先生にも話したが無視をされる。

「なんだこれ!なんかのどっきりか?」
無性に腹が立ち、学校を飛び出した。

ズキン!
頭に激痛が走る。

「痛い。なんだよ体調も悪いとか最悪な日だな。」

学校を出て3分ほどの所に彼のアパートはあった。
「母さん、ただいま!ってこの時間は誰もいないか。」
シングルマザーの僕の家にはこの時間は誰もいない。
「暇だし海でギターでも弾くか。」
自分の部屋からギターを取り、アパートの下にある駐輪場にむかう。
「あれ?なんか昨日からいきなりチャリのチェーンが錆びてない?」

ズキン!
イライラしたからかまたもや頭に激痛が走る。

大きく深呼吸し、心を落ち着かせる。ママチャリのスタンドを蹴りチャリにまたがった。

ギターを背負いながらの運転は少しぐらつく。体勢を崩したのはギターを背負いながらチャリに乗っているからだけではなかった。
チェーン以外にもハンドルが曲がっているし、サドルもクッションがかけているしブレーキも効きにくくなっている。
本心では、すぐにでも、新しいチャリに買い変えたいが、頑張って節約してくれている母を目の前のすると新しいものをねだることは出来なかった。
まだ頑張れば使えると言い聞かせて半年は経つだろう。

いつもの海までの一本道がなんだか懐かしく感じる。
昨日も同じルートで牛臥海岸に行ったはずなのに。
信号も新しくなったし、工事中のマンションがいつの間にか完成している。
横見をしながらふらふらと一本道を進んでいく。

まだ数分自転車を漕いだだけだがもう背中には汗の気配がする。
もうそろそろ本格的な夏が来るのだろうか?
喉が渇いたので赤信号の間に、財布の中身を確認する。
ポケットの中にも、カゴにも財布がない。
しょうがない。冷えてないけど、足利商店でもよるか。
足利商店は同じバンドのメンバーのドラムをやっている健一の実家である。
お金がない時限定で、つけ払いをOKにしてくれるのだ。

本来、この大きな交差点を真っ直ぐ行くと海に近いのだが、足利商店に寄るなら、左に行く必要がある。
少し遠回りになるが水分をとれないよりはましか。
「っち。こういう日は本当にイライラが重なる。」

足利商店に着くと、休憩中なのか、店頭には誰もいなかった。
「こんなんだから万引きされちゃうんだよ。おっちゃん!このお茶もらっていくぜ!」
裏の方に、大声を出すが何も反応がない。
その後も何度も問いかけるが何も反応がない。
こんな昼から留守とは、相変わらずやる気がねぇな。

「ったく。後で100円もってくるから。」
店のドアを閉めるとチャリに乗った。
少しすると、牛臥海岸に続く一本道に入る。
「あれ?こんな看板あったっけ?」

【事故多発。自転車も車もみんな徐行でみんな安全。】

昨日まではなかった大きな看板と、そこには多くの花が置いてあった。

ズキン!
頭に激痛が走る。

「痛!すぐに海岸に行こう。」
急いでママチャリを走らせた。海岸に着くと頭の痛みは治まっていた。
なんだったんだろう?あの激痛は。
理由は分からなかったが、むしゃくしゃしていたので気持ちを収めるためにすぐに歌い始める。

「後はBメロのメロディーだな。あいつらにも早く渡さないと。文化祭まで時間がないからな。」

既に書き終えた詩を眺めてにんまりする。

潮風と共に君への想いを伝えたい。
大好きだって伝えたい。
この声が届かなくても君のことが好きなんだ。

うん。我ながらいいサビだ。
この歌を文化祭で、歌詞を通して横井晴美に告白する。
そうすれば幼馴染の関係から一歩踏み出せるかもしれない。
成功のイメージをすればするほどニヤニヤが止まらない。

「Bメロをどうするかだよな~。」
口ずさみながら、ギターを引き、口ずさみながら、ギターを引きと繰り返す。
「できた!!」
全部が完成する頃には、時刻は17:20になる頃だった。
まだ半分しか口にしていないお茶は、お風呂のような温度になっていた。

「時間的にまだ部活やっているのか!あいつらが帰る所を待ち伏せして楽譜渡せばいいか!」

ギターをしまい、善は急げ!とチャリまで走る。
「お!100円落ちてる!ラッキー!帰り際に、足利商店に置いてこよ!」
今日は前半に嫌なことがいっぱいあったけど、後半は曲も完成したし100円も拾ったし!やっぱり悪いことがあったら、その分いいことがあるんだな!ウキウキしながら、元来た道に戻る。

キキーーーーー!!!

狭い一本道を大型のトラックがスピードを出している。

ズキン!

「あぶない!!!助かった。死ぬかと思った。」
直前でブレーキをかけたため間一髪で間逃れた。

「あれ?なんか見たことがある光景だな。デジャブか?」
あと少しで思い出せそうだが、なんか思い出せない。モヤモヤしながらチャリを漕ぎ続けると、すぐに足利商店に着いた。

お店の前には、健一と両親、ギターのすずやんとベースのこうちゃんもいる。
そして、意中の横井も。

「おい!お前らなんで黒い服着てんだ?それに、なんか、、、歳取った?健一なんか、ひげ生えてんじゃん!すずやん太ったし!こうちゃんなんか俺より全然背が高くなっているし!それに、、、横井なんか化粧しちゃってさ!」

誰も反応しない。

「あいつが死んでからもう7回忌だもんな。」
健一がタバコを吸いながらつぶやく。

ズキン

「あいつのことだから、いきなり浣腸とかしてきそうだよな!」
すずやんがケラケラ笑う。

ズキン

「お前にはしないだろ。俺じゃんやられてたの!」
こうちゃんの目頭が熱くなっている。

ズキン

「ね。なんでこんなことになっちゃったんだろう。」
横井が泣いている。

ズキン

「私、ケイタのことずっと好きだったのになぁ。」

思い出した。

そうだ。俺、死んだんだ。

脳内が今まで使ったことがないくらい動きまわる。

あの日、三者面談で、バンドで食っていきたいからみんなで同じ高校に行きたいと言う僕に、先生と母さんが激怒した。
あなたの成績ならもっといい高校に行ける。
バンドメンバーと同じ高校じゃなくてもバンドは出来るから!
私の人生の全てを費やしたのにバンドマンになりたいなんて。私の人生はなんだったの?
しまいには2人とも泣き出してしまった。

「なら高校もいかねぇよ。俺なんかいなきゃいいだろ。」
そう言って教室から抜け出した。

その後家に寄って、ギターをもって海に行った。
イライラしてたけど、思ったより制作が捗って、歌ができたんだ。
初めての歌が出来たからみんなに見せようとウキウキしてた。それで、、、。

そうか。

あそこの看板の所に置いてあった花は僕に向けたものだったんだ。

「そろそろ17:40になるから学校に行くか。先生と、ケイタのお母さんも待ってるし。」
健一が運転席に乗ると、ケイタだけがその場に残し全員が車に乗る。

みんなを追いかけるが声が届かない。
どんどんと車とチャリの距離は広がっていった。
追いつかないので、来た道を通って学校に先回りする。
どうせぶつからないだろうが、赤信号を無視する勇気はなかった。
もし、無視してしまったら自分を霊と認めてしまう気がして。
腕時計を見ると時刻は、17:30になっていた。
まだ、最終下校時刻まで30分あるため、前から下校している学生のほとんどが文化部だ。
そのため、ピーク時には歩行者天国のようになる一本道も、まだ混雑していない。
文化部の生徒達をよけながら、自分の家に急ぐ。
駐輪場にチャリを置くと、そのまま学校に走る。

教員用玄関の前には、健一達に加えて、当時の担任と母さんが着いていた。
母さんは、小奇麗な人だったが、顔はやつれ、一気に白髪が増え、誰が見てもおばあちゃんと言われる風貌になっていた。
「先生お久しぶりです。」
健一はむっとした表情で先生に声をかける。
ことの経緯を知っているからか、先生を良く思っていないように感じた。
「足利君、お久しぶり。みんなも元気で何よりで、、、」
先生もどこか気まずそうだ。
「みんな7回忌なのにケイタの為に集まってくれてありがとうね。」
母さんが泣きながらみんなに話す。
まあまあとみんなが母さんを励ます。
「先生、今年も流してくれるんですか?」
母さんが泣きながら先生に問う。
「はい。もちろんです。あの場所はあれからも事故が多くて。ケイタ君のような事故が、今後決して起きない為にもこの歌は流し続けようと思います。」
時刻が、17:40になる。
「あと、20分で部活が終了します。最終下校時刻は18:00です。速やかに下校の準備を始めましょう。」
放送部のアナウンスが始まる。

ピアノの音が聞こえる。
体に違和感を覚え手を見るとだんだんと薄くなっていた。

【潮風と共に君への想いを伝えたい。】

作成した歌よりもロースピードな曲調で歌が始まる。

「バンドの楽譜から合唱版に作ってくれたのは、晴美ちゃんなのよね?」
「はい。奇跡的に、【牛臥海岸の潮風に揺られて】の楽譜だけは無事な状態だったので。吹奏楽部の全員で作りました。」
「横井さんは吹奏楽部の部長だったもんだもんね。」
母さんの問いに横井が頷く。
この会話は何度もしたものだったが、特に不快感はなかった。
しかし、ケイタの話題はもう増えることのないんだと断言されているようで辛くなる。
「結局ケイタの想いを届けたい人って誰だったんだろうね。」
この重たい空気を変えたい一心で横井がボソッと漏らす。

「え、横井だよ。気づいてなかったの?」
「それしかないよね。」
「あいつ口にしないけどお前のことずっと好きだったよ。絶対」
健一達が総ツッコミを入れる。

「え。」
初恋が両想いと知り、顔を赤らめた。その横井を見てケイタまで赤くなる。

【大好きだって伝えたい。
この声が届かなくても君のことが好きなんだ。】

メロディーに合わせて、つぶやくように口ずさむ。
さーっと風が吹いた。
グラウンドの砂を含んだ風は目が痛くなる。
砂埃もいつかは牛臥海岸まで届くのだろうか。

どこからか転がってきた100円玉はみんなの輪の中で止まった。


あとがき

3作品目の小説集をご覧いただきありがとうございました!
今回は、地元の大好きな場所を舞台に色々な物語を作ってみました!
表現って難しいなと改めて実感しました!
拙い部分もありますが、本当にありがとうございました!
コメントもらえると嬉しいです~!

舞台は下記リンクから見れます!
沼津港からも近いので、興味ある方は是非行ってみてください~
都内からだと夜だと2時間くらい(東名高速を使えば!)で行けちゃうと思います!


2ドライブ

3散歩コース

4久しぶりの外出

5牛臥海岸の潮風に揺られて


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