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【短編恋愛小説】牛臥海岸の潮風に揺られて①僕たちの青春

牛臥海岸の潮風に揺られて
目次
1僕たちの青春
2ドライブ
3散歩コース
4久しぶりの外出
5牛臥海岸の潮風に揺られて

あらすじ
伊豆の玄関口とも言われる静岡沼津。
沼津の最大の観光地である沼津港から、南に約3kmほどに位置する牛臥海岸にはたくさんの恋物語があった。
①隠していた好きな人が、親友の彼女になってしまった話
②友達以上恋人未満の関係以上になれなかった話
③大好きな方を亡くしてしまった話
④長らく忘れていた初心な恋を思い出した話
⑤もう一生結ばれることのない初恋の話
潮風のような淡さ、夕日が目に染みるような眩しさ、海に飛び込んで何もかも忘れたい恥ずかしさ、、、あなたはどんな恋をしてきましたか?
様々な恋愛を1話完結、全5話でお届けします!

1僕たちの青春
「あと、20分で部活が終了します。最終下校時刻は18:00です。速やかに下校の準備を始めましょう。」
17:40になると放送部による、下校準備のお知らせと共に、聞いたこともない合唱曲が流れる。
普段は、下校の音楽は蛍の光なのに、7月2日だけは、下校の音楽に無名の合唱曲が使われる。
数年前に交通事故で亡くなった生徒が作詞した歌らしく、その人の命日である、7月2日だけ、その年の卒業生が歌った合唱曲が下校の歌として流れるのであった。
少し怖いが、今後その場所で事故が起きないために学校で決めたらしい。

「春人!今日もこの後、夏樹っちに集合な!」
合唱曲が流れ始めて間もなくすると、バスケ部の秋人は、陸上部の部室に顔を出すと、一言だけ告げて颯爽と体育館の方へ戻っていった。
「なんだよ。行くなんて返事してないのに。」
ぶつぶつと言っているものの、どうせ僕が来ることを見越しているのだろう。
顧問からの連絡事項が終わり、制服に着替え終わるころには、最終下校時刻の18:00まであと5分だった。
横目にサッカー部を見ると、ちょうどグランドへの挨拶が終わったところだった。
集合先の夏樹は、サッカー部なので、そのまま夏樹を待つことにした。

僕、秋人、夏樹はクラスも部活も違うが、よく遊ぶ仲だった。
きっかけは覚えていないが、いつの頃からか、部活が終わると、僕と秋人が夏樹の家に行くのが恒例行事になっていた。
「お、春人ちゃん!待っててくれたの!ありがとね~!」
制服に着替えた夏樹は、制汗剤のいい匂いを振りまきながらこちらに走ってきた。
ロールアップされた両足には、アフリカの民族衣装のように艶やかなミサンガを結んであった。
くっきりとした二重に、彫刻で掘られたようなすっとした鼻筋、手の甲に収まるんじゃないかと思わせるほどの小顔。
健康的な日焼けをしていて、その爽やかなルックスに拍車をかけた。
それに加えて、背も170を超えたらしい。
老若男女問わずイケメン、整っていると言われるような男である。
元々が他よりも優れているのに、髪にはいつもワックスをつけているし、ロールアップも腕まくりもするわ、ミサンガだってつけている。デオドラント効果がある制汗剤もそうだ。
校則違反だらけで、風紀委員や生活指導の先生には注目の的だが、同時に女子の視線も集めまくる。
最近だと、3年生のヤンキーで有名な先輩にも、1年生で一番かわいいと囁かれている後輩にも告白されたらしい。
かっこよくてちょい悪なサッカー部員。
まさにモテる為に生まれてきたような男だ。
「さっき秋人から、夏樹っち集合って言われたからさ~」
「まじ?俺んち姉貴が中間試験中らしくて家入れないぜ?」
自分の髪の毛を仕切りなく触っている。
「そうなの?あいつ許可とってないのに遊ぶ約束してたのかよ!本当に適当だな。」
「なんなんだよあいつ!しかも、いつもバスケ部ぎりぎりだよね?今日無理って言えないじゃん。」
「うーん。このまま待ってても先生に怒られるから外出るか。」
「そうしよ。」
潮風中学では、5月から夏休みまでは、18:00まで部活動が可能になる。
日が伸びてくるこの時期は、中体連前ということもあり、どの部活も時間のぎりぎりまで練習をしている。
ただ、熱が入りすぎるあまり、時間をちょろまかそうとする部も出てくるので、18:00近くになると、先生たちは目の色を変えて一斉に生徒を追い出す作業が始まるのだ。
これを生徒たちは、一斉立ち退きと呼んでいた。
一斉立ち退きの群れに入る前に、僕たちは学校の敷地外に出た。
「今日はどうする?海でも行く?外オッケー?」
「俺は全然海でいいよ。一回家に荷物置くから、少し待っててくれない?」
「オッケー。」

夏樹の家は、牛臥海岸のすぐ近くにあり、僕らの「海」は牛臥海岸のことを指していた。
山のふもとにある潮風中学からちょうど2㎞くらいの場所に夏樹の家はあった。
学校から夏樹の家までは一本道だ。その間に僕の家もある。
この一本道は中学生の7割が使っている。
そのため、部活終了後は歩行者天国のように、一本道を埋めつくす。
しかし、秋人は3割に含まれるため、下校は僕と夏樹の二人だけで帰ることがほとんどだった。

「じゃあ、速攻で荷物置いてくるからちょっと待ってて!」
「わかったよー。」
夏樹は僕の家の小さな塀に腰かけた。

「お母さん、ただいま!給食セット出しとくね。」
「春人おかえり。また夏樹君の家に行くの?」
「今日は海!とりあえず行くから。」
「迷惑かけないようにね。気を付けてね。」
両親は、僕の行動に干渉しない。
それは出来のいいお兄ちゃんのお陰で、僕に興味がないのか、それとも、元々の親の性格なのかはわからないが僕にとっては有り難い限りだった。
部屋にバッグを置いて、代わりに財布とケータイを持つ。
最近買ってもらったばかりの、お気に入りのスライド式ケータイだ。

「お待たせ~。」
夏樹に声をかけながら、ガレージからチャリンコを引っ張り出す。
「春人は支度が早いな!秋人はいつも準備が遅いからさ」
「それすごくわかるわ!」
秋人への不満を漏らす。僕たちは秋人への不満をよく愚痴る。
しかし、嫌いだからではなく、本当に仲がいいからだ。
そして、信用の裏返しとも言える。
早いこと言うと彼は愛されキャラなのだ。
「てか、カバン乗せろよ。」
ママチャリの前のカゴにバックを乗せるよう促す。
夏樹がバックを乗せた時、ちょうど近くを女子バスケ部の集団が歩いていた。
集団の中の一人が、夏樹君ずるーいと話しかけてきた。
「俺と春人は親友だからな。君たちも春人君に頼んでみなさい!」
「春人君頼りのくせに何偉そうに!先生に言っちゃうよ?」
「それだけは勘弁して~」
夏樹の変顔と緩急をつけた声に、女子たちも夏樹もキャッキャと笑っている。
夏樹という男は、男女問わずみんなから人気がある。
まもなくして大きな交差点に差し掛かる。
この交差点で、真っ直ぐ、左右で生徒たちがバラバラに別れ始める。
バスケ部の女子たちは、交差点を渡らず右へ曲がっていった。
「夏樹君また明日ね!」
「じゃあね!本当に先生に言うなよ!」
「どうしよっかな!あ、春人君もまたね!」
「おう。」
夏樹が振り向きながらきゃっきゃと大きく手を振っている。
僕は、チャリを手にひいているので、女子側を振り向くことができなかった。
青信号が点滅しかけている。
先に信号を渡ると、ゆっくり横断歩道を渡っている夏樹を見るついでに、女子の集団をチラ見した。
「うちの中学の女子バスケ部はみんなノリが良くてかわいいぜ!特に、早川!顔も整ってるしスタイルもよくてノリもいいのに完璧かよ!あ、でも春人は嫌いなんだっけ?」
夏樹は先程へらへら笑い合っていた女を急に褒めだした。
「・・ああ。なんか、なんでもできますって感じがいけ好かない。小学校の時からなんか俯瞰して物事を見るというか、一歩引いて物事を見てるっていうか。なんかそんな感じが気に食わないんだよな。」
「お前も変わってるよな。早川のことを悪く言うのお前くらいだぞ?」
いきなり夏樹は、近くにある石を思いっきり蹴る。
交差点を真っ直ぐ行く生徒は少ないので前には誰もいなかった。
「俺って人を見る目あるから。あいつは絶対に嫌な奴だぞ。てか、お前ってみくりちゃんが好きなんだろ?早川のこと褒めてるけどどっちが好きなんだよ。」
「そりゃーー。おりゃあああ!!」
いきなり奇声をあげなが先程蹴った石の方に数メートル走ると、こちらを振り向く。
「みくりちゃんに決まってんじゃん!大好きだぜ!みくりー!!小学校の時から好きなんだぞ?片思い4年目だ!そろそろ気づいて告白してこいや!!」
「声でけーよ!しかも告白してこいって。男らしいのか女々しいのかわからないな!」
いきなりの告白に笑いがこぼれてしまう。
「いや、みくり愛を伝えなきゃって。」
「なら本人に言えよ!」
「無理だって。がち恋だから。」
みくりちゃんは正直あまり可愛くはない。その分、誰にでもすごく優しくて愛嬌がある。
夏樹が彼女に惚れたのも、その優しさらしい。
小学生の時に、死んだおばあちゃんからもらったハンカチを落とた時に必死に探して、3時間かけて見つけてくれたかららしい。
それからずっと秘かに思い続けているのだ。
そして、みくりちゃんが好きという理由だけで、怖い先輩も、かわいい後輩も簡単に振ってしまう。
ただのチャラ男に見えるが意外に芯があるやつなのだ。
そこが彼の良い所であり、仲良くなれた理由だった。
そんなモテ男が、いきなり早川のことを褒めたので少し焦った。
しかし、すぐにみくりちゃんのことを好きと言ったので安堵した。

「春人、お前は本当に好きな人いないのか?」
「いるよ?」
「やっぱりいたんだな。で、それは誰だ?」
「ママ!」
「めんどくさ!それ秋人の持ちネタじゃん!」
二人で声を出して笑った。
夏樹は僕たちに心の内を話してくれるのに、また心に蓋をした。
本当の心を親友の二人にも伝えられていない。本当に最低な野郎だ。
いつも悪く言っている女子のことを、本当はずっと好きだった。
・・・なんて言ったら二人は驚くだろうか?
恥ずかしさを隠すために貶すのか、それとも、言葉通り本当に嫌いなのか。
自分の心のことなのに、自分でもわからない。
ただ、いざ早川の話をしようとすると悪口が先行してしまう。
ということはやはり嫌いなのか?
でも、、、だとしたら彼女を見た時、考えた時の、胸の高鳴りはなんなんだろうか。
親友の二人にだけは相談して楽になりたいが、嘘の期間が経つにつれてどんどん言えない状態になっていた。
「俺も荷物置いてくるからちょっと待ってて!」
夏樹の家の前に着くと走って玄関に向かっていった。

チャリンコのスタンドを上げてサドルに乗る。
秋人に、夏樹の家に着いたことをメールだけすると、ぼーっと早川の顔を思い描きながら、チャリンコをから漕ぎする。
もし、彼女も僕のことを好きだったらな。・・・絶対ないと思うけど。
小学四年生の時、僕は早川と同じクラスだった。
彼女を見た瞬間に、心を奪われた。それが僕の初恋だ。
何をするわけでもないが、ただただ彼女を目で追いかけた。
そして、モテる彼女に嫉妬した。
叶わぬ恋を諦めたい自分が自然に悪口へと導いたのかもしれない。
どうせ無理なら嫌いになってしまおうと。言葉にすれば本当に嫌いになってしまうだろうと。
今思うと、あの時から、何か高いハードルを見ると、瞬時に諦めてしまう癖がついてしまったと思う。
はあ、とりあえず二人にはいつか相談しないとな。

「おまたせ~。飲む?」
夏樹が両手に麦茶を持って戻ってくる。
「ありがとう!とりあえず、秋人を待つか。」
秋人が来るまで玄関の前でダラダラとくっちゃべると、ノロノロとチャリンコを漕ぎながら秋人がやってきた。
「やあやあ。皆さんお揃いで!早くゲームしようぜ!今日は俺が勝つ気がする!」
にやにやする秋人に夏樹が怒る。
「てめぇ、勝手に俺んちで遊ぶ約束しやがって!今日は姉貴がテスト期間でうるさくできないから海な!」
えー!と嫌そうにしている秋人のリアクションを無視して、夏樹はチャリを走らせた。
僕もそれに続く。
「おい!待てって!」
後ろで秋人が慌てているので二人でスピードを上げた。
「先にコンビニ行くぜー!」
追いかける秋人に伝えると二人でコンビニに入る。
夏樹は菓子パンにピーチティー、僕は唐揚げとアップルティーを買って、先に店を出る。

少しすると、
「おまたせー。」
カップ麺を慎重に持ちながら秋人はやってきた。
「いつも思うけどお前って本当に器用だよな。こっから海まで一本道だけど、いつもお湯をこぼさないもん。」
「春人、こいつは褒めたら調子乗る。チャリにカップ麺って、ただのバカだよ。」
「はあぁ!?」
夏樹は、冷静にツッコむ。
そして、その後の秋人の反応を予知していたかのように嘲笑う。
「そんな怒んなよ!今日の下校の歌の人の交通事故もここで起きてるらしいし!」
仲裁に入ると、むっとした表情を見せていた秋人だが、まあ気を付けるよとすぐに落ち着いた。
海に着くとちょうど夕日が沈むころだった。
海岸には誰もいない。ただ波の音だけが響いている。この静かさがみんな好きだった。
「牛臥山公園が開いてればいいのに、18:00に閉まっちゃうなんて。」
牛臥海岸の隣には牛臥山公園という田舎にしては整備された公園がある。
中学生に屯されて汚れるのを恐れているのか、夕方には閉園されるようになっている。

「とりあえず食おうぜ!」
三人で波を見ながら、並んで各々勝ってきたものを食べる。
「秋人汁くれ」
「待て。まだ麵食ってる。」
僕と秋人のこのやりとりも定番だ。
「てかさ。秋人結局罰ゲームしてないよな?」
夏樹はにやにやしながら僕に言い始める。これから先の会話も定番だ。
「確かに!ゲームで5連敗したら、好きな人を発表。そこからまた10連敗したら告白だよな?お前何連敗中?」
「言ってみ?」
「・・・31」
「どんだけ弱いんだよ!よくゲームやろって言えるよな!」
僕と夏樹は笑う。
「だから今日戦ってチャラにしようと思ってたんじゃん!夏樹は負けた時に好きな人を言ったけど、春人は言ってないよな!」
「だっていないんだもん!あ、あと勝ってもチャラにはならないけどな?」
どの口が言っているんだ!本当はいるんじゃないか!
心の中に何かが刺さる音がした。
「告白はチャラでもいいからさ、そろそろ好きな人は言ってもいいんじゃね?」
夏樹が助け船を出す。こういう優しさも彼のモテる理由なのかもしれない。
「確かにな。いつもママ!はそろそろ冷めるぜ?」
自分は言わないくせに追随する。本当に自分のことが嫌いになる。
はぁぁぁーーー!
「まあ、お前たちには言ってもいいかもな。」
覚悟を決めたような口調で話し始める。
「じゃあ、言うぜ?」
「うん。」
「・・・ママ!」
「もういいって!」
夏樹がイライラしているのがわかる。
「ジョークジョーク!」
神妙な顔つきになると、
「俺、早川と付き合っているんだ。」
「まじ?」
僕と夏樹は同時に秋人を見つめる。
「大マジ」
口が歪む。
秋人は真剣な話をするときは口が歪む癖があった。
「実は、最近早川とメールしててさ。中々いい感じだったんだよね。それで昨日告白してさ、いずれみんなにばれるかもしれないから二人には言いたいと思ってたんだよね。」
鼓動が早くなるのがわかる。
「早川めっちゃいいじゃん!秋人とお似合いな感じがするわ!頑張れよ!てか、昨日も俺たち遊んだよな?いつ告白したんだよ!」
夏樹のテンションが上がる。
上がれば上がるほど僕の目の前の景色が色褪せていく。
「実は昨日メールで!」
告白した内容と早川の返事を見せてくる。
嘘だと信じたかったが、これを見せつけられたらもう何も言えない。
「春人がいつも悪口言うからなんか言いにくいのもあったんだよね!」
ストッパーが吹っ切れたようで、先程のシリアスな雰囲気が嘘のように流暢に話し始める。
「それは、なんかごめん。」
「いや、いいよ!人の好みだし!むしろあいつモテるだろ?お前らが狙ってる方が辛いから。なんなら嫌いくらいのがいい!」
秋人の笑顔が、またも得体の知れない何かが僕の心に突き刺さる。

「えー、秋人と早川か。じゃあ俺でもいけるかな?みくりちゃん諦めて、早川狙おっかな!かわいいし!」
「お前チャラいな!マジぶん殴るぞ!俺は小学6年生の時から好きなんだから!」
「ジョークジョーク!」
「お前が言うとそうは聞こえないんだよ!」
いつもの秋人がむきになる流れで二人は笑っている。
懸命に笑うようにしたが、多分いつものように笑えなかったと思う。
秋人より、僕の方が好きな期間は長かったのか。
だったら僕でもいけたのかな。
いや。どうせだめだっただろうな。連絡先すら持ってないし。
「じゃあ、俺も早川の悪口は言わないで、秋人のことを応援するわ!」
思っている言葉と、真逆の言葉が自然に出てきた。
でも、いつもやってきたことだ。
「春人って結局優しいよな!サンキュー!」
秋人の笑顔は夕日よりも眩しく感じた。
ちょうど夕日の三分の二が沈んでいた。
「目に潮風が入った。なんか涙出てきた!」
「お前、、、悔し涙はだめだって!大好きな俺が、嫌いな早川に取られて悔しんだろ?」
「ちげーよばか!気持ち悪いな!」
三人は笑った。
大丈夫。いつもやってきたこと。
でも、涙くらい許して。
今日で最後にするから。
そうすれば、この恋は誰にも知られないから。


2話は7/20の18:00に公開予定です!

2ドライブ

3散歩コース

4久しぶりの外出

5牛臥海岸の潮風に揺られて


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