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赤ワイン

雪がどっさり降る街、息も凍る街で起こった愛の話がある。それはまるで寒さが心臓まで届いても、2人が触れ合えば強く熱く、喉元がカッと燃えるウイスキーのようで、はたまた体の隅まで渡るお汁粉のように甘く温かかった。家が氷と雪で覆われても2人でいれば季節も忘れる。親が死んだって気づかないほど、お互いの心の中に入り込むことに夢中だった。
そんな2人はよくホットワインを作った。
生姜にレモン、蜂蜜にシナモン、少しの八角。そしてたっぷりの赤ワイン。それらを鍋に放り込み火にかける。沸騰しないようにかき混ぜる。

「今日は酔っ払いたくないから、長めに火をかけてよ」
「酔っ払わないホットワインのどこが楽しいの?」

こんな他愛もないやり取りがお決まりだった。
アルコールがちょうど半分抜けたホットワインを片手に、古いフランス製のソファに1人は深く腰掛けて、もう1人は背筋を伸ばして浅く座った。
今日のホットワインは生姜がよく効いており、湯冷めした体を芯から温めた。
「やっぱりわたし赤ワインが好き。どうやったって幸せな気分になる。」
「同じく。キティってカクテル知ってる?赤ワインとジンジャーエールを混ぜ合わせるんだって。」
「美味しそう!夏になったらふたりで飲みたいな」
「きまりね」

今年は夏なんて生涯来ないんじゃないかと思う程の恐ろしい冬だったから、2人は毎晩、肌と肌をぴったり合わせ、狼の家族のように寄り添って眠った。
それが余りにも幸せで、夏もキティもまだ2人には必要がなかった。

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