人生2度目のキャバレーにて
先日、キャバレーで働いた。
大阪、ミナミなんば。いわゆる「ウラなんば」と呼ばれるエリアにあるキャバレー「ミス大阪」。昭和12年に創業し、今年で86年目を迎えた日本最大級のグランドキャバレーだ。
1階と2階で合計300の客席。すべてがボックス席でゆったりとしている。天井からはライトの光が降り注ぎ、テーブルではレトロな灯りが妖しく光る。
特に印象的なのが2階からの眺め。昭和の香りがプンプンする。
キャバレーで働いたといっても、艶やかな出で立ちでお客さんの相手をする、キャバレーの華「ホステス」ではない。
チケットを「もぎる」のがわたしの仕事。イベントの受付係である。
残念ながら低空飛行の色気度数。いまとなっては女の匂いはすっかり枯渇し、戻ってくる気配はない。そんなわたしが、煌びやかなキャバレーを闊歩できるわけがないのだ。仮にホステスの面接を受けたとしよう。確実に不合格だ。お酒は好きなんだけどね。
でも今回の「チケットもぎり」係は「やります!」と言っただけで、面接もなく即座に任命された。
わたしだって働けるじゃない!夢のように華やかなグランドキャバレーで。
所属するゴスペルクワイアの事務所からのメールを受けとると、すぐさま手伝いに立候補した。
だって働いてみたいもん。グランドキャバレー「ミス大阪」で。
5年ほど前にも、かつて「キャバレー」だった場所に行ったことがある。それは「ミス大阪」と目と鼻の先。2015年に映画の舞台にもなった「味園ユニバース」だ。客席にグルリと抱かれるような形でダンスホールを真ん中にしつらえた、広々としたイケイケ空間である。
そのときはステージで歌わせてもらった。ありえないくらい高揚した気もちになったのを、いまでも鮮やかに覚えている。
今回は姉妹グループの歌仲間たちが出演するんだもの。応援したいじゃない。「もぎり」のお手伝いでもなんでも、いくらでもしますよ!
♢
当日は、開場の1時間前に現場入りしてリハーサルを見学。出演者たちは興奮と緊張が入り混じった表情で、それでも本番が待ちきれないようす。
もうすぐ本番。みんな楽しんで!
「ミス大阪」の前には開場前から長い行列ができていた。その列を目にし、受付係のわたしたちも気を引き締める。さあ、もうすぐキャバレーでの仕事がスタートだ。
開場から開演まで、文字通り「大わらわ」だった。受付での名前確認、お金の受け渡し、チケットの引き換え、出演者へのプレゼントの受け取り。お客さんたちはドリンクのオーダーを済ませると、次々とミラーボールの回るきらびやかな客席へと吸い込まれていった。
「キャバレー」という空間に初めて来たひとも多かったのだろう。開演までのあいだ、天井のライトの写真を撮ったり、赤に輝くステージを眺めたり。ステージはまだ始まっていないけれど、空間全体が少しずつ高揚していくのがよく分かった。
日常とはまったく違う空間。お客さんたちのわくわくスイッチが入る音を聞いたような気がする。
カチリ。
出番を待つ歌仲間たちは、さきほどのリハーサルとはまるで別人のよう。ステージ衣装に身を包み、舞台用の化粧もバッチリだ。
背中から腰まで大きく開いたショッキングピンクのドレスに銀色のピンヒール。体の線が際立つ真っ青なタイトのドレス。黒のパンツスーツに中折れハットとサングラス。ゴールドのスパンコールが一面に貼りめぐらされたミニドレス。
キャバレーの真っ赤な光や、輝くミラーボールにちっとも引けを取らない。女のわたしでもクラクラするくらいにセクシーだ。
イントロが流れ、緞帳が上がり始めた。
出演者たちがステージに姿を現すと、大きな拍手が。友達や家族が見に来ているんだろう。「〇〇ちゃーん!」という声援も。声援、クラップ、拍手。どれも、出演者たちの大きなエネルギーとなる。
1曲目から大盛り上がり。
ステージのパワーが客席に。客席のエネルギーはステージに。お互いが反応すればするほど、会場の密度と濃度は上がっていく。たまたまその場に居合わせたひとたちが音楽でつながる。最高に気もちがいい。
ロックンロールの世界。アップテンポ曲のオンパレード。1980年代の映画のテーマソングが流れ始めると、お客さんたちはクラップだけでは飽き足らなくなった。ジッとしていられなくなり、席から立ちあがると、ステージ前まで行って一緒に踊りだす。
この一体感、たまらん!やっぱりイイね「生」は!
受付係のわたしたちも、客席の後ろのほうで踊った。クイーンの曲や、ジョントラボルタの映画のナンバーを聞いていて、ジッとしていられるわけがないじゃない。
「キャバレー」なのよ、ココは。踊るためのホールですから!
最近の「キャバレー」は男のためだけの場所ではないみたい。こういった歌のイベントやダンスの催しなど、面白そうなことをいろいろやっている。昭和の、日本がまだガンガン経済成長していたころの、豪華絢爛さを味わえる空間。
昭和世代には懐かしいだろう。「昭和レトロブーム」が続いている令和のいま、若い世代にとっては新鮮な場所かもしれない。ぜひ1度は体験してみてほしい。
行こうよ、キャバレー。
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