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久しぶりにお客さんの前で歌ってみたら

ゴスペルに馴染みのないお客さんが、私たちの歌を聞いてクラップをはじめた瞬間、ステージ上で「やった!」と思う。

そこにいるすべての人が、わざわざゴスペルを聞きに来たわけではない。

たまたまそこに居合わせただけ、というケースも多い。モールやイベントなどで歌う場合、ほとんどのお客さんは通りがかりの人たちだ。

今回のようなホテルのバーラウンジもそう。お客さんにしてみると「たまたまそこにいたら」ゴスペルライブが始まった、という感じ。

だからこそ、そういうお客さんを自分たちの歌に引き込めた瞬間、心の中でガッツポーズをするのだ。

先日、私が所属するゴスペルクワイアは、某ホテルのバーラウンジで歌った。そのラウンジでは、お客さんの前で歌う機会を定期的にいただいている。

ウィルス騒ぎのため、もちろん十分に喚起し、全員が歌唱用マスクをつけて歌う。

ちなみに、歌唱用マスクとはこういうもの。


通常のマスクより、口やあごを大きく動かせるのが特徴。歌うときに唇がマスクに触れないので、ブレスもしやすい。マスクなしのほうが歌いやすいけれど、いまのご時世、そうもいかない。まだしばらくは辛抱が必要。

でもこの辛抱は、これまで歌えなかった期間や、歌そのものに対して厳しい目が注がれていたころの辛さと比べたら、大したことはない。

いまはこうして、人前で歌わせていただけるんだもの。人数制限やマスク着用などの不便があったとしても、そんなのはへっちゃらだ。

歌えるだけでありがたい。

ゴスペルクワイアに入り、今年で12年目。ウィルス騒ぎ前には100人を超えるメンバーがいたが、いまは30名強。ここ数か月間で新しいメンバーも少しずつ増えてきた。また新しい風が吹く。

ホテルのバーラウンジで歌いながら、思うように歌えなかった数年を思い出し、涙がでそうになった。30人ものメンバーが一堂に会して歌ったのなんて、すごく久しぶり。普段のレッスンでは人数制限があり、多くても10人くらいでしか歌えない。

大人数で歌うと音圧が違う。ハーモニーに厚みがでる。

まわりのメンバーのエネルギーやパワーに触発され、みんなどんどんイイ声を出すし、感情が高まり、それが声のうねりとなってあらわれ、グルーヴ感が生まれる。

これまで私は何十回もお客さんの前で歌ってきたので、緊張はしない。大きな声で歌いながら、メンバーの表情やお客さんの様子を観察する余裕がある。ただの年の功かもしれないけど。

歌詞やメロディーに共感するのはもちろん、ステージで一緒に歌う仲間やお客さんの表情に心を動かされ、歌いながら気もちがどんどん高まっていく。

私たちのゴスペルを聞くために集まってくださった方だけでなく、たまたまその場に居合わせたお客さんが、私たちの歌に「おっ?!」というような反応を見せてくれたとき、心でガッツポーズをするのだ。

先日のバーラウンジには、いろんなお客さんがいた。ホテルの宿泊ゲスト、ラウンジにお酒を飲みに来たカップル、仕事帰りのサラリーマン、誰かと待ち合わせている外国人。

歌がはじまった瞬間からステージを注視してくれるのは、純粋にゴスペルを聞きに来た人たちだけ。他のお客さんは飲み物やおつまみに手を伸ばしたり、おしゃべりしたりしながら、思い思いに過ごしている。ゴスペルをBGMとしてとらえている様子。

それでいい、ホテルラウンジなんだもの。

それが、ある瞬間にフッと手を止め、おしゃべりを中断し、ステージに目を向けてくれるときがある。首をグッと伸ばしたり、体の向きをステージのほうに変えてくれるときがある。

その瞬間をとらえると、私たちの歌はエネルギーを増す。歌い手の思いの丈が届くようにと、1人でも多くの人に届け!と、念じながら歌う。アップテンポの曲だけでなく、バラード調のゴスペルでもそうだ。

「届け!」という想いを込めて歌詞を放つ瞬間は、とても気もちがいい。

お客さんの変化を感じたメンバーが同じように反応するので、さらに力強い歌声がその空間に響きわたる。ステージ上でクラップ(手拍子)したり、踊ったりしながら「届け!」と念じて歌い続ける。

それに呼応し、たまたまその場に居合わせただけのお客さんがクラップしはじめた瞬間、私はステージ上で「やった!」と思うのだ。

この空気感を一緒につくってくれている、その事実に感謝して。

歌う側だけが盛りあがるのを否定はしないけど、そこにいる人たちを巻き込んで盛りあがったほうが楽しいに決まってる。

ゴスペルにはそのチカラがある。

1度もゴスペルを聞いたことのない人が「ゴスペルって結構いいね」と思ってくれたら、それだけでとても嬉しい。

その夜は、合計13曲のゴスペルを歌った。全身で歌った次の日、腹筋が筋肉痛でエライことになったけど、それさえも私にとっては幸せの証。

こうやって、またみんなと一緒にゴスペルを歌えるようになった。それが私の魂を満たしてくれる。

来月も再来月も、イベントで歌わせてもらえる機会があることに感謝して。

バーラウンジで歌ったゴスペルの1曲がKurt Carr & The Kurt Carr Singersの『For Every Mountain』。

世の中のどんなできごとも自分の成長のために用意されている、というメッセージが込められている。

イントロを耳にするだけでゾクゾクするゴスペル、聞いてもらえると嬉しいです。


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