夢中になれるものがあるのは人生の強み
いいモノ見せてもらったなぁ。
口元がつられて緩んでしまう。
「なかなか見れないよな、大の大人があんなに嬉しそうに無邪気に笑ってるのん」
カフェから出るとすぐ、息子が言った。
「“オタク”って呼んでからかう人いるけどさ、そうやってからかう人に聞きたいわ。あんなにアツく好きになれるもん、おまえにはあるのか?ってさ」
ふむ、なるほど。息子よ、なかなかイイことを言うじゃないか。
いくつになっても夢中になれるものがある。それって人生の大きな強みかもしれない。
♢
子どもたちと行ったカフェに居合わせた、40~50代と思われる男性3人。2つ隣のテーブルでコーヒーを飲みながら、3人とも【HELLO! PROJECT】と書かれたファイルやアルバムを膝の上に広げている。
なにしてるんだろうと視線を移すわたしを見て、娘が言った。
「生写真のトレードだと思うよ」
娘は乃木坂46と日向坂46の大ファンだ。ウィルス騒ぎの前は握手会などのイベントにも行っていたし、いまでもお小遣いの大半を女性アイドルのグッズ集めに費やしているから、男性3人の動向が気になるらしい。
「この写真はレアポーズなんで、普通のヒキの写真よりレート高いんですよ。これをもってる人は少ないと思うなぁ」
わたしたちのテーブルにも届くくらい、弾んだ声だった。
1人の男性が誇らしげに写真を見せている。満面の笑みだ。『レアポーズ』に反応したのか、他の2人はその写真に顔を寄せ「おーーー!」とか「これはすごい!」とかしきりに賞賛している。その顔はまるで、珍しいオモチャを見つけた子どものようだ。
「わたしの写真も見てくださいよ。これはね、〇〇のアルバムが出たときのイベントで…」
「あーーー!4年前の夏に△△であった、あのイベントですよね。あのイベントぼくも行きましたよ、2日目のほうに」
そのイベントを思い出しているのか、3人とも斜め上を見ながら余韻に浸っている。うっとりとした様子で、漫画なら心理描写の吹き出しをつけたいくらいの表情だ。
4年前を思い出して、こんなに幸せそうな表情ができるんだ。恍惚オーラ全開の彼らの姿に、見ているわたしの口元まで緩んでしまう。
夢中になれるものがある。それってすごく幸せじゃないか。
♢
「あのオジさんたち、なんか可愛かったね」
駅までの道すがら、娘が言った。日向坂46のイベントでも、オジさんたちの発する恍惚オーラは格別なのだとか。
「街なかに行くとさ、結構ムズカシイ顔してる大人って多いじゃん。そんなん見てると、あんな大人にはなりたくねぇなって思うわ。でも、さっきのオジさんたちみたいに無邪気に笑ってる姿を見ると、あぁいう生き方もアリだよなって」
息子も、カフェで会ったオジさんたちに好意的だ。
ひと昔前まで「オタク」にはネガティブなイメージがあったけど、いまはもうそんな時代じゃないみたい。
他の人にどう思われるかなんて、関係ない。自分が好きなものは好きなんだ。自分の機嫌をコントロールできるのは、自分なんだもの。
♢
夢中になれるものがある、それ自体にとても価値があると思う。夢中になれるものがあるだけで人生は華やぐのだから。
夢中になれるものをもっているひとは強い。心の中に、懇々と湧きたつ喜びや楽しみの泉をもっているのだから。
それは人生の強みといってもいい。
自分の「夢中になれるもの」が仕事に繋がるかどうか、そんなこととは関係なく。
自分の「夢中になれるもの」が利益を生み出すかどうか、そんなこととも関係なく。
夢中になれるものは、手に取ったり目に見えたりするような物質的なメリットとは全く違うレイヤーにあって、生きるための活力の源になる。
心の底から楽しめるものを持っているかどうか。
その違いは大きい。とてつもなく大きい。それは、人生の質を一変させるくらい大きな違いだ。
夢中になれるものがある。それって人生の大きな強みじゃないだろうか。
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