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新書はいいぞ、楽しいぞ

大学生のころ、読書の時間はたっぷりあった。

電車で片道2時間半という通学は、毎日が小旅行。スマホやケータイもない時代だったので、通学のお伴は文庫本。小説ばかりを読んでいた。

「新書」というものがあるのは知っていたが、新書は「おじさん」が読む本だと決めつけていた(偏見極まりない)。

新書をはじめて読んだのは、最初の育休中。市の図書館で手にとった。

慣れない育児がスタートし、分からないことだらけ。来る日も来る日も乳児を安全に育てることばかりを考え、すべてのエネルギーは乳児に注がれた。

1年の育休がおわったら職場復帰するとはいえ、世間から分断されたように感じていた。乳児と向き合う毎日のなかで、社会から取り残されていくような焦燥感。

そんな焦りからか、敢えて、ビジネスマンが読んでいるような新書に手をのばした。育休中にも、世の中はどんどん変わっていく。その変化に振り落とされたくなかった。

働いている人の思考に意地でもしがみつくんだ。そんな執着心から、新書を読みはじめた。キッカケは邪道かもしれない。でもそこから、新書の大海原をのんびり漂うことになる。

新書を開けば世界は広がった。育児だけの日々に「知」の風が吹いた。

そもそも新書とは、政治、経済、学問、社会時評などの側面において、読者に知らしめるべき知識、情報、技術などをもっている専門家が書いている。新書は論文集のようなもの、と言えるかもしれない。

扱うテーマは幅広く、専門家の「知」のエッセンスが詰まっている。

新書は、いままで知らなかった世界を見せてくれた。既知の世界なら、違う切り口で、別の視点からその世界を見せてくれる。

知的好奇心を大いに刺激する、それが新書の魅力。

どこの出版社も、新書の装丁はスマートな印象。その「ツン」とした雰囲気がよい。読み終わったあとで、賢くなったような気もちにさせてくれるのもさらによい。

図書館でも本屋さんでも、まっさきにチェックするのが新書の棚。

気に入った新書は本屋さんで買い、その後も大切に本棚においている。そのうちの何冊かを挙げるとすれば、自由と規律日本人の英語ふしぎなキリスト教日本人は「やめる練習」がたりてない自分の頭で考える日本の論点スマホ脳女たちのポリティクス・・・・

キリがない。

今回は、特に心に響いた新書を紹介したい。目の『見える』世界の住人を、目の『見えない』人の世界に連れて行ってくれる、そんな1冊。


悲観的な内容ではなく、まるで旅行記のよう。目の『見えない』世界は、わたしの世界と違っていて面白いよ、と著者がその驚きをまとめている。

視覚障がい者の世界をのぞいてみない?そんなスタンス。

『見える』人と『見えない』人の空間把握力の違いをとりあげたり、『見えない』人が体の部位をどう使っているのか、についても書いてある。

『見えない』人の体は、『見える』人とは別の働きをする。視覚以外の感覚を使って、外界情報をキャッチする必要があるからだ。『見えない』人は、視覚以外の感覚がきわめて鋭い。
 
わたしは「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」が好きで何度か体験したが、視覚以外の感覚がふだんとは違う力を発揮するのに驚いた。真っ暗闇の世界で研ぎ澄まされていく感覚。とても不思議な体験で、脳までもがクリアになった瞬間を、いまも忘れられない。
 
この本は『見えない』人に対してもっているイメージを、ガラリと変える。『見えない』人だけがもつ感覚はユニークで、わたしの住む世界とは違っていて非常に興味深かった。
 

 
こんなふうに、新書は新しい世界への扉なのだ。新書の並ぶ棚には、その新書の数だけ、世界の入り口が用意されている。
 
ようこそ、新しい世界へ。
 
その声が新書から聞こえると、その扉をまた開けてしまう。
 
あなたの目の前にも、その扉はある。ぜひ、開けてみて!一緒に新書の「知」の風に吹かれましょう。

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