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すべて愛するものたち

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#小説

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私が滞在していたアパートのエントランスには、大きな本棚があった。

戯曲や、演劇のパンフレットのいくつかは表紙を向けて並べられていた。

アパートを出るときも、戻るときも、いつもこの本たちに見つめられていた。

アパートを去るとき、私はアパートのオーナーにいい本棚ですねと言ってみた。彼女は、夫のものだと言った。彼女の夫は今いるのかわからなかった。

グレーに近い水色のセーターを着た彼女は、自分の部

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きのうのこと

きのうのこと

昨日はバイトの後、急いで駅前でやっているイベントに行った。

ふた駅先のおいしいスパイスカレー屋さんが出店しているというのでどうしても買いたかったけれど、16時の閉店ぎりぎりに行ったからか売り切れたのか、もう店じまい。テントの下で荷物をまとめていた。

仕方なく、まだやっている雑貨屋さんの出店を見て木製のクリスマスオーナメントやリバティプリントの雑貨を買った。

会場を出て、これだけは譲れないと思

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私の人生こんなもの

私の人生こんなもの

幸せな結婚はしたけれど、起きたら洗濯物を干してバイトに行き、仕事が終わると夕飯は何にするか悩み、仕事のミスですぐ落ち込んで……。私の人生こんなもの。

似たような境遇の小説がないかインターネットで検索してみたら、なぜかSFが出てきて、さらにもうひとつはエッセイだった。エッセイの解説には「一生懸命生きなくていい、失敗したら、潔く諦める!」と書いてある。

この本の著者はフリーランスだからこう言えるの

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何も言わない海とにらめっこして、私あんなに頑張ったじゃない、何も悪いことしてないじゃない、なんでこんな目に合わなきゃいけないのよ。そう思って海にばかって言いたくなったのに言えないの。そしたら、海の上に反射した光が言うのよ。だってあなた、いい人なんだもん。しょうがないわよ。