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のらくろ

 のらくろは戦前、田河水泡が描いた漫画である。親父が子供の頃熱心に読んでいたのだろう、戦後、再販改訂版が出て、買い集めていた。
 それを僕も読んで、勉強させてもらった。
 のらくろ上等兵/のらくろ伍長/のらくろ軍曹/のらくろ曹長/のらくろ小隊長/のらくろ少尉/のらくろ総攻撃/のらくろ決死隊長/のらくろ武勇伝/のらくろ探検隊、全10巻。
 あまりのらくろの話をするものだから、小学校で一時期流行った。本を買うひとも現れた。僕はインフルエンサーになった。
 戦後、実は田河水泡はのらくろを書くのだが、戦後の戦争反対平和が一番、とかなんとかいいながら肩を組みう気の抜けた内容になっていたので、買ってない。
 のらくろは漫画誌に連載されていたのだが、一部、単行本と内容が違う。社会人になって、連載分ののらくろ全集を手に入れた。父親にプレゼントした覚えがある。今は僕の手元にあるけれど。
 のらくろは戦意高揚漫画であることは間違いない。とはいえあまり人気があったから、戦後アニメにもなった。当時は戦争を語るについてもTV局は深く考えていなかったのかもしれない。
 のらくろは戦意高揚漫画ではあったが、戦争末期には販売中止になっている。娯楽は全て封印したかったのだろう。
 内容は猛犬連隊に入隊したドジで早とちりであわてんぼうの、野良犬黒吉が活躍して、どんどん出世していく物語である。最後販売禁止になる寸前は兵隊を辞めて満州で一発当てようとする。
 こののらくろには当時の人が思う兵隊や戦争の存在があり、多分に喧伝された内容もある。バクダン三勇士の話等。
 深読みするとこののらくろ、実は怖い。当時の日本人の各国の印象が現れている。まず、犬は日本である。羊が朝鮮で、ロシアが熊、中国が豚で書かれている。猿も登場するが、これは国内の反政府派?かもしれない。
 クライマックスは中国との戦争である。豚である中国人は羊をこき使い、働かなくなったら、羊の肉を食べて猛犬連隊はそれを救う役割である。朝鮮の人が読んだら、嫌な顔をしそうだが。
 犬は犬で豚饅頭とかを食べる。それどころか、捕虜である豚たちに間違えて兵士用のシュウマイを食べさせてやる。本人はごちそうしてやったようだが、共食いさせたのである。
 のらくろはギャグ漫画なので、そういう無遠慮さ非常識さがある。そして死に淡泊である。
 のらくろは死も厭わず、突撃していく。大怪我をしても元気である。当時の少年たちを兵隊への憧れ、へと誘った罪は重いはずだ。
 のらくろ世代、つまり親父の世代は結局戦場にはいかなかった。戦争が終った途端、天皇陛下は人間です、アメリカ強くてえらいです、ギブミーチョコレートと180度教えが変わって、戸惑った世代である。
 どんな気持ちで大人になって、のらくろを読んだのだろうか。おそらくは懐かしさだけで、暗い気分にはならなかったのではないか。でないと全巻買い揃えない。
 のらくろはやはりギャグ漫画なのである。深読みしてはいけないのである。
 

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