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タクシー(ショートショート)

 火星から地球行きの宇宙船に乗って、久しぶりに地球に帰ってきた。法事が行われると云う事で、実家から連絡があったからだ。
 宇宙船から降りると、早速IDとパスワード、指紋認証、顔認証を経て、税関を抜ける。迎えには来れないといっていたので、会場まで自力で行かなければならない。
 球型をした無人タクシーに乗る。なんだか観覧車の中みたいな雰囲気だが、座席はそこまでかたくない。スペースは思ったよりは広い。教えてもらった場所のナンバーをキーボードに打ち込む。443923-00023-5454567。
 そして自分のIDとパスワード、指紋認証、顔認証を行い、やっとタクシーは動き出した。
 どこをどう走っているかなんて、全然わからない。景色は真っ暗であり、トンネルの中をまっすぐ進んでいるだけのようにしか感じない。
 突然、タクシーは上に向かって動き出した。グーッと上っていく。耳がおかしくなりそうなそんな感じがした。
 ある程度上って行ったら、地上が見えた。本当に久しぶりの地球の大地だ。
 だが今は定められた作業員の他はなにびとも大地に足を踏み入れることはできない。危険だからだ。放射能やウィルスや、その他の人間の体によくない物質が空気中に漂っているからだ。定められた作業員たちは、十分な装備をしたうえで、地球の再開発を行っている。
 タクシーは再び、横に動き出した。外に出られないと云ってもやはり地球の景色はいい。火星よりずいぶんといい。大気が汚染されているとはいえ、緑があるのである。あの植物は、火星では育たないのだろう。なんていう名前の植物かはしらないが、綺麗である。花も咲いている。赤い花だ。
 タクシーはやがて止まり、ドアが開いた。代金はいらない。後払いになっている。そのために個人情報を打ち込んだのだ。
 ここまでくると後は会場を探すばかりであるが、3mほどの通路をまっすぐいくと、看板が立ってあったのですぐにわかった。
 兄や兄嫁が待っていた。法事は父親と母親の2人同時である。滅多にこれるわけではないので、同時にしてもらったのであった。
 親戚筋も来ていた。皆懐かしい顔ぶればかりだ。坊さんが来て念仏を唱え終ると、後は宴会になった。
 久しぶりなので、調子になって飲んだ。地球の酒はうまい。なぜこれが火星にないのだろうか。買って持って帰ろうと思った。
 悪酔いした。段を踏み外し、顔から落ちて、でかいたんこぶができた。こんなこと子供の時以来だ。おまけにゲーゲー吐いてしまったので、後の処理をするのに、大変だった。
 この会場は場所だけ借りている形なので、そういう処理も自分たちでしなければならない。匂いが残らぬよう強い洗剤で、洗った。そういう洗剤類は会場に常備してあった。
 宴会も終わりに近づき、また皆別れ離れになる。今度会うのは誰かの葬式かもしれないな、なんて誰かが冗談を言う。
 別れてから来た道を戻り、タクシー乗り場までいった。今夜はホテルをとってあった。さすがに火星と地球の日帰りは無理である。
 タクシーに乗り、ホテルのナンバーを打ち込んだ。それからIDとパスワードを打った。だがタクシーは反応しない。指紋認証はさっきの強い洗剤のせいで指紋が消えてしまっており、(手袋をしたほうがいいよといわれても、面倒くさかったので、しなかったのが悔やまれる)顔はたんこぶで人相がかわっていた。おまけに化粧もとれて、私の顔は別人のようになっていた。
 酔っぱらっていた私は、強硬な手段に出た。タクシーを蹴り上げ、叫んだ。
「そこのホテルまでいって頂戴。行かないとタダじゃおかないわよ」
 恫喝が効いたのかタクシーは動きだした。どうやらホテルまでいってくれるらしい。ちゃんとホテルのナンバーは打ち込んであるので間違いはないはずだ。
 しばらくして、タクシーは止まって、ドアが開いた。
 そこは警察であり、私の行動はリモートで、一部始終警察に見られていたようだ。警察官が2人、私を連行しようと待っていた。
 
 
 

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