見出し画像

退職に至るまで

 僕は職場では瞬間湯沸かし器といわれていた。武闘派とも隅の方で語られていた。カーッとなって怒鳴るとケロッとしているのである。部下の方々は、さぞや扱いにくい人物だっただろうと反省している。会社内だけでなく、取引先にも結構迷惑を掛けた。1度、ため口をいってくる営業マンがいて、最初の頃は、僕の態度も悪かったのかな、と思い黙っていたが、どうやら誰にでもそうであるみたいで、何かの拍子に切れて、怒鳴り散らしたことがある。
 新体制になって、そういうキャラは歓迎されないので、できるだけ大人しくしようと努力した。だが情報は既に本部にはいっていたらしく、何かあれば店長を外してやろうと思っていた節がある。
 丁度、そういう人事異動が連発して行われていた時期でもあった。人によっては何で店長を下ろされるのかわからないままに、降格人事を喰らわされることが多かった。もっとも人に言えない部分もあるだろうから、必ずしも心当たりがないとはいえないはずだ。ただ本人に言わせれば、何故そんなことで降格させられなければならないのかわからない者もいた。
 新体制は古い体質の者をどんどん粛清したいのだ。ちょっとのことで問題視して一般社員に落とすのである。それで辞めていった者は数知れず、次は俺の番だとばかりに前もって辞める者も多かった。
 僕も多分にその匂いを感じていた。結局女性パートのちょっとした批判で店長を下ろされた。批判した女性もビックリしていた。まさか自分のせいで、こんなことになるとは思っていなかったのであろう。これが若手なら注意だけで、済んでいただろうが、即降格であった。わかってはいたけれどショックだった。何しろ店長と一般社員では給料が違い過ぎるのだ。困ったことになってしまった。だがどうしようもない。辞めてもそれでもここよりいい給料を貰えるところなんて、この歳ではないであろう。降格を甘んじて受けるしかなかった。
 それから数年してストレスが原因と思われるのだが、バセドウ病に罹り、やがてうつ病になって行く。既にバセドウ病になる前から少し精神状態はおかしかった。
 それで辞めるのだが、うつ病になったおかげで、傷病手当やLTD保険(就労不能保険)が出て、却って働いていた時よりも潤った。皮肉なものである。
 会社に恨みはない。新しい体制にするにはそれなりの犠牲は必要だろう。そしてそれは古い体質の人間であろう。致しかない事である。LTD保険なんて前もって僕のために会社が入ってくれたようなものだし、新しい体制で、辞める時もいろいろお世話になった。あるいはいいタイミングで辞めたともいえるかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?