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叫ぶな(ショートショート)   NOTEコンテスト#2000字のホラー

「バカ野郎」
 そういった瞬間、窓ガラスが揺れ、教室の机が震え、黒板が倒れた。
「何が起こったんだ」
 加藤がびっくりしながらいった。
「単なる地震だろ」
 俺がそう答えた。
「しかし俺はずっと外を見ていたけれど、揺れていたのは教室だけだったぞ」
 放課後の高校の教室。加藤と俺と中山しかいない。中山が、教室の外に出た。
「廊下もなにごともなさそうだな」
 中山がいった。ひょっとして俺が叫んだから、揺れたのだろうか。少年ジェットでもあるまいし。
「もう一度叫んでみろよ」
 中山がいった。そして廊下にいった。加藤は外を監視した。
「バカ野郎」
 俺はもう一度叫んだ。また教室が揺れた。面白くなった。

「バカ野郎、バカ野郎、バカ野郎」

 思いっきり叫んだ。サッシのガラス窓は割れまくり、黒板は倒れ、机はぐはぐちゃに倒れまくった。
 俺は超能力を身に着けたのだろうか。
「やはりこの教室しか揺れていない」
 加藤がそういい、中山が頷いた。その証拠に校庭であわててるやつは誰もいなかった。
 だがこの教室のガラスが割れ、下に破片が落ちた異変に気付かぬ者はいなかったようで、数人の先生がやってきた。ここは4階であった。下に人がいれば怪我人が出ているかもしれない。
「お前達何をしていた」
 先生の1人が叫んだ。瞬間、教室がまた揺れた。残っていたガラス窓が下に落ちた。
 俺の超能力ではなかった。誰でもこの教室で叫べば、こうなるんだ。先生たちは驚いた。
「どういうことだこれは」
 別の先生が叫んだ。
「叫んじゃだめです」
 という俺が叫んでしまった。天井が落ちてきた。照明器具がぶら下がっている。
「この教室の中で叫ぶと地震が起こるみたいです」
「そんなバカな。いったいどういうことなんだ」
「超常現象ですよ」
 中山がいった。奴はUFOとか幽霊とか超能力とかが大好きで、毎月専用の雑誌を買って読んでいるくらいだ。
「とりあえず教室から出よう」
 そういわれて俺たちは廊下に出た。その瞬間、廊下が揺れた。校舎全体が揺れた。どういうことだ。あわてて俺たちは階段を降り、校舎の外に出た。校庭も揺れていた。地割れが起こった。俺たちはびびった。俺たちばかりではない。校庭にいるもの、グラウンドでクラブ活動をしているやつらも、不安そうな顔をして、ポカンとしている。
「どういうことだ。時間差で揺れた」
 叫んでもいないのに揺れた。
 そこへ地中から校舎を崩しながら、何かがでてきた。
「ナマズ?」
 それは黒い塊のようなものであり、まるでナマズのようであった。地震は地下でナマズが暴れるからだと、江戸時代にはいわれていたが、ひょっとすると本当にナマズだったりして、と俺は思った。
 その黒い塊は一気に割れた。割れたというより咲いたといったほうがいいかもしれない。花のように空に向かって割れていったのだ。
 まるで黒いラッパが空に向かっているような感じだった。
「これは宇宙人の仕業だ」
 中山がいった。知らぬ間に宇宙人が学校の地下に基地を作って今、外に出てきたに違いない、とさも事情通のように喋った。
 そのうちラッパから何か音が聞こえてきた。それはだんだん大きくなっていった。
バカ野郎

バカ野郎


バカ野郎


 それは俺の声だった。延々とその俺のお声は響き渡っていった。町中に聞こえるように。なぜスピーカーが学校の地下から現れてきたのかはしらないが、俺はただ恥ずかしかった。夢落ちだったらいいのに、と思った。
 バカ野郎の声に共鳴して、再び地震が起こったかと思うと、次々に黒いラッパの花が地中からでてきた。そして「バカ野郎」の大合唱が始まった。
「何で俺の声だけなんだよ」
 俺はマジで恥ずかしかった。ただでかいスピーカーからの声なので、低音で響いているから、俺の声だとは誰も気づかないだろう、多分。
 また揺れた。ラッパの花が地中からでてきて、また「バカ野郎」の大合唱である。
 俺は「叫ぶな」と叫んだ。
「これは宇宙と交信してるんだ」
 中山が言った。
「宇宙人の大襲来がくるぞ」
 俺の声が宇宙人にどう伝わっているのかはしらないが、宇宙船が大挙攻めてきたら俺の責任になるのだろうか。
 自衛隊機が飛んできた。攻撃はしないようだ。様子を見ている。いつの間にか警察自衛隊がやってきて、市民に避難を誘導している。俺たちもそれにのって、その場から逃げた。その間も「バカ野郎」の大合唱は続いている。
 やがて本当にUFOが大挙、空を埋め尽くした。
「ほらみろ」
 中山は自慢げにそういった。自衛隊機数機がUFOにむかった。UFOはそれをまるで相手にしない。そのまま、ラッパの口の中へと入っていった。やはり中山の言ったように奴らの基地が学校の地下にあったのだ。
 恐ろしい光景を見ながら、ただ茫然と俺はそれを眺め続けた。
「バカ野郎」のコーラスはその間も切れ目なく発せられている。これが奴らへの合図なのだろう。
 自衛隊の戦車がやってきた。一斉に花に向かって攻撃を開始した。花は銃弾当って燃え始めた。UFOは戦車に攻撃を始めた。もはやしっちゃかめっちゃかである。
#2000字のホラー
#2000字の法螺
   俺は思った。何てつまらねえオチなんだ。爆風に飛ばされながら、心のなかでそう叫んだ。




 
 
 


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