見出し画像

学校で熱中症で亡くなる子どもをゼロにするためにみんなができること。(署名にご協力お願いします)


こんにちは。暮らしかた冒険家の伊藤菜衣子です。小学生と1歳の子どもがおり、さらにはこの10年ほどは断熱にまつわる書物の編集などに携わってきました。
この署名を見て「エアコンが導入されてもなお、夏の学校は命の危険と隣合わせになっているだと?!?!?」と知りました。呼びかけ人であり日本の温熱環境のフロントランナーである竹内昌義さんと前真之さんに「現状」と「あるべき姿」を詳しく聞きました。
「何でもっと早くやらなかったの?と思う前に」「断熱、換気、エアコンのダウンサイジング、太陽光発電で昔みたいに少ないエネルギーになる」など、心にささる名言と、希望ある提言に溢れたインタビューとなりました。

竹内昌義 東北定術工科大学 建築・環境デザイン学科教授/株式会社エネルギーまちづくり社代表取締役/設計事務所「みかんぐみ」共同代表/パッシブハウスジャパン理事
建築のデザイナーでありながら、建物の脱炭素化に取り組んでいる。
前真之 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授

学生時代より25年間以上、住宅の省エネルギーを研究。 健康・快適で電気代の心配がない生活を太陽エネルギーで実現するエコハウスの実現と普及のための要素技術と設計手法の開発に取り組んでいる。
伊藤菜衣子 暮らしかた冒険家/クリエイティブディレクター

「未来の“ふつう”を今つくる」をモットーに、暮らしにまつわるあらゆる違和感をアップデートし具現化、そして言語化を試みる。SNSとリアルを泥臭く奔走し、未来の暮らしを手繰り寄せていく様を、坂本龍一氏は「君たちの暮らしはアートだ」と評す。 100万人のキャンドルナイトをはじめ社会課題の解決を試みるクリエイティブを手がける。著書に編集も手がけた「あたらしい家づくりの教科書」と「これからのリノベーション 断熱・気密編」(ともに新建新聞社)など。札幌の元自邸は断熱の性能向上が評価され2016年リノベーション・オブ・ザ・イヤー800万円未満部門最優秀賞。現在は愛知県で竹内昌義氏が設計したUa値0.27W/m2・Kの戸建てに住む。


現状は、エアコンが導入されてもなお
夏の学校は命の危険と隣合わせになっている


伊藤:
今日は、お時間ありがとうございます。エアコンが導入されてもなお、学校の熱中症対策が十分でないと知り、2人に「現状」と「あるべき姿」についてお伺いできたらと思います。

竹内:
まず、昔に比べて、いま夏がすごく暑くなってしまったので、学校という建築物のあり方もなんとかしなきゃいけないです。学校はこのくらいでいいんだ、苦労しながらすることが勉強だっていう価値観があるけど、それは昔の気温が低かった時代の話ですよね。今だと熱中症になって最悪の場合は、死ぬんですよ。気候が変わってるっていうことをまずちゃんと認識して、取り組み方を変えなきゃいけないと思うんです。

前:
そうですね、日最高気温が35度以上を超える猛暑日が連発するようになってきてる。昔は猛暑日って東京ではほとんどなかったわけですからね。6月から暑い。

伊藤:
夏休みの前から暑いですもんね。子どもを学校に通わせている親として、熱中症にならない環境なのかは、気になります。

前:
子どもが自主的に選んで学校の教室にいるわけじゃないんですよね。義務教育である以上、行政がきちんと健康快適であるという環境に整える責務があります。学校を選んでいたとしても、どこの教室にいるか自分で選べないですからね。どこの教室も十分に健康快適であるってことは極めて重要です。


そもそも学校ってどういう想定でつくられた建物ですか?

竹内:
まず電気がなくても明るく普通に勉強できることを前提にしていて、南側に日射を取るための窓があります。そして、右利きの学生が多いことを前提にして、西側に黒板があるんです。明るくするために天井高は3mを確保し、採光のための開口部の有効面積を床面積の1/5にすることが建築基準法で決まっています。効率的に学校をつくるために、全国ほぼ一律の標準図という図面が出回ってます。どうですかね、前さん?

前:
 はい、おっしゃる通りで、おそらく昔は電気を全く使わないで授業ができるっていうコンセプトだったんじゃないかと思いますね。今では照明がついてますけどね。換気は、自然通風しかないってことになったんでしょう。夏は大きめに、冬はちょっとちょっとだけ窓を開けてね。でも、だんだん外気温が上がってきちゃってるから、それも難しい。体温よりも外気温が高い日もある。昔は想像できなかったことだと思うんです。

伊藤:
なるほど、そもそも前提が今とは違っていたんですね。では、現代の学校のあるべき姿はどうなるんでしょうか?


現在の気候条件だと、学校建築はどうあるべきか?

竹内:
2018年4月に学校環境衛生基準が一部改正されたんです。でも、その後6月に愛知県豊田市で子どもがまだエアコンが導入されていなかった教室で熱中症で亡くなるということがあり、政府が早急に全学校にエアコンを入れましょう、って動いたんです。今は普及が進んだので、かなりの割合で教室にエアコンがついてる状態です。

伊藤:
令和4年度から学校衛生基準では、望ましい温度を「18℃以上、28℃以下」としてますが、今回の署名の趣旨説明にもありましたが、日射の影響を受けやすい最上階や、窓際では、クーラーをつけても体感温度が35度以上になっているところもあると…。エアコンの導入で、2018年6月よりは改善されているけれど、熱中症のリスクは依然として高いというのは、この署名が始まるまで、わたしは知りませんでした。

前:
以前、学校に計測に伺ったんですが、無断熱で日射遮蔽ができていない教室の室内表面温度は、天井が42℃に達していました。エアコンの設定温度は17℃で、10℃の冷風が吹き出していましたが、断熱不足で熱侵入が大きすぎるため、室温は31℃までしか下がっていませんでした。

伊藤:
無断熱と日射遮蔽なしに、エアコンだけではどうにもならないことがリアルなのですね。

前 :
エアコンだけボーンとやっているのが今ですね。本当は、断熱と換気もセットにしないといけないんですよ。それで、この2つが加わることで、エアコンのダウンサイジングもできますね。あとは太陽光発電もね。この3つを進めることで、昔みたいに化石燃料にあまり頼らず、自然の力だけで回るような学校にまた元に戻るわけですよ。

竹内:
あとは熱中症対策をこえて、脱炭素という文脈も加わりますけど、時代的な背景としては2025年に住宅の断熱の義務化がはじまるんですね。それと同時に学校も義務化されます。中小の工務店が施工できないからとか、お客さんの負担が増えてしまうからということで、控えめな義務基準になってるんです。だけど、学校などは自治体などが、きちんとした設計事務所とつくっているので、同じ基準ではなく、もっと進んだことをやるべきじゃないですかね。公共建築の義務基準をどこまでにするんだっていう議論もするべき時が来ていると思います。


「なんでもっと早くやらなかったの?」と
思う日が来る前に対策して欲しい

伊藤:
最後に、お2人がこの活動の呼びかけ人をした動機はなんでしょうか?

竹内:
「なんでもっと早くやらなかったの?」って何かあってから思うんじゃなくて、僕は、そうなる前にやりたいんですよ。やって欲しいんですよ。

前:
住宅でもそうですが、断熱という工学的に当たり前のことを、社会に当たり前に普及させていない結果、熱中症でもヒートショックでも、どれだけの人が死んでるんだ、って話なんです。あとは学校は学びの場だから、本来は勉強を学びやすい環境であるべきです。ただ生きていられればいいんじゃなくて、ちゃんと勉強ができて、世の中を良くするためにしっかり学んで、将来活躍してもらうためですよ。快適っていうのは贅沢って思う人がたくさんいますが、本来やるべきことに集中できる環境だって解釈するべきです。

伊藤:
なるほど。あるべき姿としては、学校っていう学習に集中できる「温度」「湿度」「CO2濃度」そして今までもあった「明るさ」を担保するってことですね。

前:
今すぐやったほうがいい緊急措置としては最上階の断熱材を入れるとかになるけど、中長期的には、計画をきちんと組んで、全ての学校に断熱と換気、コンパクトなエアコンにして、太陽光で賄えますよ、ということにすれば、たぶんイニシャルもランニングもそんなにお金がかからないと思いますよ。

伊藤:
それは本当に希望がありますね。5年間でエアコンがほとんどの学校に導入されたというのは、電気工事などのインフラ整備も想像すると、多くの方のご尽力があってのことだと想像し、ありがたい気持ちがあります。学校で学ぶ子どもたちのより確実な健康のために、もう1歩2歩、対策が進んでいくといいな、と、子を持つ母としても思います。日頃のご活動も今日もお時間いただきありがとうございました。

◉署名はこちらから


◉前先生による、より詳しく具体的な解説はこちらから

※前先生より「Youtubeでは、目標を2035年としてますが、最上階の断熱材などは早急に進めてほしい」とのことでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?