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回復させるという語源と、ゲストの体調に合わせて料理を作るレストランという不思議な職を思う。

レストランとは皆さんもご存知、フランス語の「回復させる」という動詞が語源です。街の看板で「レントラン◯▽◇」と見ると、ついつい脳内で「回復させる◯▽◇」と置き換えている私。

そこで提供される一皿を「回復させる食事」「回復する食事」とは、ほんとうに言い得て妙だと最近になって特にかみしめています。

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忘我亭はオープンしてから25年目。
その間、途中から知っていただき、蓼科にくる度に毎回通ってくださるゲストもいらっしゃいますし、健康や年齢等でお越しになれなくなったゲストもいらっしゃいます。

当初から通い詰めてくださる方は、オープンしたての時は40歳でしたが今は当然のことながら65歳。この時の赤ちゃんはいま社会人になりたて。65歳だった方は90歳!(この方4月26日がお誕生日で先日お祝いしました)
家族構成も増えたり減ったり、ドクターから体調の管理も徹底するように言い渡されるようになった方もいらっしゃいます。
みなさんと一緒に歳を重ねる四半世紀はほんとうに長く、人の一生のようにいろいろなことがあり短いです。

とある日、長年のお付き合いのあるA氏の奥様からこのような申し出を受けました。

「主人が高血圧気味で、ドクターから『食生活を改善して塩分を控えめにするように』といわれたの。
食塩摂取は1日6g。平均して一回の食事に2gしか取れないのです。
それでもそちらでお食事したい。コースを通して2gで作っていただけますか?」

わたしたちは即、やってみたいですとお返事しました。
このような申し出はいろいろなケースがありますが、辞退せずとりあえず前向きにお受けすることにしています。
ググるとなるほど、高血圧気味の方は一人1日6g以内の塩分摂取が望ましいとありました。最近では健康な方も6gを勧めているようですね。

こういうときは、面白がることが大事。
2gという敵 ? の正体を知るために、まず測ってみました。

こんなにあるんですね。2gは薄味の忘我亭にとっては量が多い方です。
この量で味をつけるのは比較的簡単。
他のゲストのお料理もコースで同時にお出ししなくてはならない中、手順を決めて段取ってみました。

1)A氏のお料理だけ個別に取り分けて塩を入れないようにお作りしておく。
2)この2gのお塩の皿をA氏の脇にセット、味が足りないようであれば随時足していただく。

こうすれば塩分の量を可視化でき、塩分を少なめにしなくてはという後ろ向きな心理が、塩分を足すという前向きな気分に変わります。ゲームのようにも思えます。
お味噌や醬類はどのくらい塩分が入っているのかは正確に計測できませんので、A 氏だけ使わずバルサミコ酢を煮詰めたもので代用してみました。塩分を濃度あるさわやかな酸味に置き換える作戦。
オリジナルの味をそのまま味わっていただくことはできませんが、ほぼ味の路線は確保できます。
ゲストも参加する食べ方。


当日、とても喜ばれました。
お皿に取り分けた2gも半分ほど減っているだけ。
「素材の味そのものをオーダーメイドでいただいた感じです。楽しくいただきました」とは食後の感想。

お役に立ててうれしいです。
塩は生命を維持するのに必須なものですが、とりすぎないように工夫することも大事です。
ゲストとずっと暮らしているわけではありませんので、塩分を日々どのように摂取されているかはわかりませんが、忘我亭にいらしたときだけはお塩のことを気にせずに召し上がってほしい。
長いお付き合いで酸いも甘いも知る間柄ですもの
回復していただきたい、というのは切なる願いです。

この他、菜食主義の方のお食事もお受けしたことありますし、砂糖の代わりに羅漢果をつかってほしいとの要望も受けたり、小麦粉アレルギーの方のも対応したことも! (この場合はパンからしてNGでしたので米粉のパンを作ることからはじめました)

街を歩いたとき「レストラン◯▽◇」とみると
「回復させる◯▽◇」と読み替えてしまうのはこんな経緯もあってです。

ご家庭で食べるごはんを
「やっぱりうちの母さんの料理は最高!  《レストラン我が家》だよね」
という声を巷でも聞きますが、ホントホント!
「回復させる我が家ごはん」に勝るものはないと頷きます。

私たちとゲストの関係が密な中
食でどこまで並走できるのか、模索しながらチャレンジの日々です。

さて、明日はお蕎麦と卵アレルギーのおばあちゃまが見えます。
手順はもうキメキメ! 
来なさい、アシタ❤️

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長くなってしまいました!
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
次回からまた過去レシピに戻ります。

↑おまけ画像。いつかのまかない。あまった卵白をつかって。


  

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