第九話『のびてく』
前回までのあらすじ
入り口付近が寂しいのでコルディリネを購入して植え、手前にはローズマリーを挿木。まだ他人行儀でのっぺりしているが、少しづつ庭が取り戻されていく。
第九話『のびてく』
日向の電線で暇そうにカラスの鳴く12月初頭、庭を訪れる。正面の奥に濃い紅色の花がいくつも開花しているのが目に入った。調べれば芙蓉(フヨウ)というらしい。夏から十月ごろに開花するとあり、立葵や木槿と混同しそうだが、上へ立ち上がった雌しべと葉で判断できた。
芙蓉は学名をHibiscus mutable (ハイビスカス・ミュータブル)というそうで、無常のハイビスカスといった意味らしい。音楽に近い人なら消せるハイと覚えても良いかもしれない。判別や学名などはこちらのサイトで詳しく教えて頂きました↓
https://pino330.com/archives/16394
南国で咲き乱れるハイビスカスほどではないにしろ、寂しい風景になっていた庭に明るい色があることはとても喜ばしかった。転居したての新しい部屋へ初めて明かりが灯ったような安堵。
庭をぐるりと回ると他にも植物たちの変化が目に見えた。冷蔵庫で芽が出ていた玉葱を植えたものは、すくすくと育ち、葱坊主の最初の膨らみが筆のように尖り始めている。
オリズルランには花なのか枝分かれするライナーというものなのかが萌えでていた。薄く白濁し、か弱そうな雰囲気だが伸びる方角に勢いがある。
水仙も最初の数輪が開花していた。水仙は冬の寒さを待ち、しっかりとした冷気を感じた後に咲くイメージがある。冬の侘しい気持ちが続く日に勇気を与えてくれる稀有な花。水を感じる清らかな香りも美しい。さすがはナルシズムにつながる名を持つものだ。その黄色や香りがもう少し淡ければ異なる名前を受けたと思う。
エコーを振ったナルキッソス(水仙)の咲く庭に無常のハイビスカスが響いているわけか。古代ギリシャ人はなんてロマンティックなんだ。
しばらく前に発芽していたクリスマスローズの新芽は、そこまで育ってはいなかったがギザギザとした輪郭がはっきりと見えてきた。三つ子の魂百までにならい、既に大人と同じ姿。
植物は強い。萎えている場合ではないことを生育で教えてくれる。切られた幹の脇から、土から、種から、次の季節次の季節へと何かを追いかけるように育っていく。それは「忘れてしまえ」という声が届く前に、「既にそこにはいません」という展開の驚くべき速さのように思う。
追伸
サッカーのワールドカップを八年ぶりくらいに観ているので寝不足気味です。エムバペというフランスの選手が可愛いですね。挙動と笑顔が子供っぽくてファニーです。
面白いもので八年前とは違うスタイルのサッカーがあり、セットプレーでは地面へ横になるディフェンダーが流行っていますね。選手の髪型にも現代サッカーを感じます。大会としてはモロッコがアフリカ勢として、またはアラブ勢としても初めてベスト4という位置まで勝ち上がりました。こちらは残すところ二試合で決勝ですが、庭はまだまだ続きます。では、また。
2022/12/12 記
ぼうぼうの庭再生記録、初回はこちらからどうぞ。
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