現代の軽さについて。

※以下は私が大学生の時に行っていた個別塾のアルバイトで、最後の去り際に担当の生徒に充てた手紙の内容です。その生徒たちが今では希望の大学に入るなどしてその朗報を聞くたび私は幸せなのであります。

コム・デ・ギャルソンの元デザイナー丸龍文人氏が或るインタビューにおいて、「今の時代は良くも悪くも軽い時代であると思います」と言われていました。丸龍氏の「良くも悪くも」という点は正に言い得て妙で、現代を批判的にも肯定的にも捉えない、客観的な表現であると思います。

昔に比べ''軽く''自己発信ができ、''軽く''他人の自己発信を受けとることができます。YoutubeやTwitterが正にそれでしょう。最近はInstagramなどもあるでしょうか。簡単に日常を写真や動画に収め、発信できます。学生は学校に行く途中にTwitterの友人の発言を目にするわけです。友人が「ああ、疲れた~」などという本当に内容もないようなTwitterの発言を見ては学生自身も内容もない「いいね」ボタンを押す。そして、学校に着いてからは「Twitterで言っていたけどもう疲れたの?」 「まじ、学校だる~」「ウケる~」などと内容のない話をしては知能指数が益々低くなっていく。そして、「模試の点数また下がった~」などと恥さらしの発言をするわけですから、自業自得極まりなく救いようがありません。でも、それで人と仲良くできるわけですから、現代人は幸せなものです。(と言いながら、現代人は其々言葉にできない寂しさを感じているわけですから、幸せでもなさそうです。)

他にも、「軽く」人と出会うことが可能になりました。マッチングアプリなるものも最近流行っているようです。マッチングというのは若い男女がアプリを通じて出会うというものです。また、インターネットの普及などによって世界中の人と手軽に交流ができます。しかし、一方でインターネット犯罪が起こることを見れば、簡単に交流できることには利点だけでなく、悪い点もあるようです。

また現代は「手軽」に恋愛をします。「好きだよ」「愛している」など軽く所構わずLINEで言い合っては軽く浮気をする。そして、「本当は私なんて好きなんじゃないんでしょ。」などと片方が逆上し破局に至る。そもそも世界中の誰も自分より好きな人などある筈もないのに「貴女は私より大切だ」などと軽く言ってしまうから駄目なのでしょう。大体、恋愛などで相手を好きになることは一切なく、相手に尽くしている自分がより一層魅力的に見え楽しいから相手を好きでいようと身をやつしているに過ぎません。でも、現代の軽さにおいて、恋愛が大きく自由になったのも事実です。軽いから悪いなどとも一概には言えなさそうです。

情報も「軽く」手に入ります。何でもググれば何とかなる。物事の一歩を踏みや出し易くなりました。「軽く」なったことで自由になったのです。学校、職業や結婚相手は自分で選択できるようになりました。「軽さ」のお陰です。音楽や絵画を気軽に公開でき、気軽に知らない相手から評価を貰えるそんな時代なわけです。勉強すればこそ「軽く」学歴が手に入る時代でもあります。

軽くなったのは効率主義のお陰です。何事も素早く多く実現させる。ただし、残念ながら効率の良さと幸せというのは等号で結びつけられるとは限りません。軽く人と交流できるため、人間の関係性も軽くなってしまい、本当の意味での結び付きが得られない。私たち人間は不知不識の間に「自分とは何か」「何故生きているのか」を考えてしまう生き物で、そのような私たちにとって軽い付き合いでは底知れない寂しさというものを感じるようになってしまうわけです。

表面的な事実ばかりを気にして、その深層の泥臭い所にはまるで蓋をして無視を決めてかかるような潔癖な態度を現代人に見ずにはいられません。効率ばかりを考え、したいことはし、したくないことはしない。好きな友達とは話し、嫌いな人間とは関わらない。やはり効率主義も行き過ぎると私たちの「人間らしさ」が失せていくのではないでしょうか。

学問についても然りです。学歴を軽く手に入れるために、「受験勉強」だけをする高校生が多いように見かけます。受験勉強は試験に受かるための効率的な勉強です。そういう意味では「軽い」勉強なわけです。受験勉強をするな、というわけではなく、受験勉強だけをするのが本当に正しいのか、と私は問いかけているわけであります。

受験勉強だけをして大学に入ってしまえば、待ち受けているのは単位取得のための「させられる」勉強です。これでは「大きく」学ぶどころか「小さく」も学べていない訳ですから小学生より酷い。

何故人は学問を志すのか。それは学問を追究し、その先に何かしらの気づきを得るためです。それはまるで座禅をし続け、悟りに至る修行僧に似ています。

もちろん、効率も大切でしょう。でも効率的な勉強だけから得られることは少ないでしょう。学問的な奥深い勉強は人生を彩るアクセントになるのではないでしょうか。

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