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【読書雑記】中島らも『今夜、すべてのバーで』

いつもの通り、Amazonをなんとなく眺めていると本書がリコメンドされていました。

全く関連のない本ばかり読んでいる僕の画面に出るくらいだから、売れているのでしょう。

書籍名は何度もみたことがあって、オススメの本として本書をあげる人を何度も見聞きしたことがあるように思います。

僕個人としては、中島らもとかナンシー関とか米原万里とか、昭和の週刊誌が象徴するようなサブカルというかオルタナティブというか、少し違う感じを出したい人が読みたくなる作家のイメージを持っていました。
(当時の文壇とか立ち位置とか一般的な評価はよく知りませんし、調べてもいません)

ただ『今夜、すべてのバーで』は作品として挙げられることも多くあったのは事実だし、タイトルだけ見れば村上春樹が息抜きに書いたエッセイや短編のようにも見えなくもありません。

そんなことを考えていると気になってきましたし、unlimitedで読めることもあってポチッと押してみました。



読んでみると、タイトルの洒脱なイメージからは程遠いアルコール中毒の汚そうな主人公がでてきます。

舞台も村上春樹の作品に出てくるようなJazzが流れる洒落たバーを想像していましたが、舞台の中心は少し汚そうな昭和の市民病院のようなところでした。

破滅的にアルコールを飲み続ける主人公は、生への執着を感じさせず、刹那的にお酒を飲み続けます。

アルコール中毒であることも自覚し、アルコール中毒という病について冷静に勉強もしている主人公は、自分が飲み続ける理由も客観的に理解しています。

アルコールを飲まないので、理解できるつもりもないのですが、衝動的に死への行動を起こすよりも、ゆっくりと緩慢に落ちていく様は少しわからなくもないような気もしてきます。

慢性的自殺

作中ではこのように表現されています。




こんなことばかり書いていると、とにかく暗い物語のように聞こえますが、基本的には滑稽なトーンで物語は続き、そのほかの登場人物は、一癖も二癖もあって読者を飽きさせることはありません。

乱暴な口調な面倒なことばかり言ってくるが、優しさを感じさせる医者

同じ病院で出会う患者たちも絶望感を感じさせない陽気な語り口です

そして、唯一真剣に声をかけてくれる親友の妹と既に亡くなってる親友

漫画のようなキャラ立ちをした登場人物を描く力は、中島らもが人気のある作家であることを知るに足りるものでした。



もっとも共感したのは、抽象と具象をいききすることがアルコール中毒の根源にあることを指摘したところです。
最後に該当場所を引用して終わりとします。

飲むことと飲まないことは、抽象と具象との闘いになるのだ。

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