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【読書】海外SF小説入門 フィリップ・K・ディック『ユービック』

海外SFへの一歩。選書について

とにかく読むしかないというところで、有名どころの作家の作品を読んでいこうと手にしたのは『ユービック』でした。

ディックといえば、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が最も有名です。僕が初めて目にした海外SF作品はこれなのではないかと思います。

ここまで魅力的なタイトルはなかなか見たことありません。「アンドロイド」という、SF向けの一般的な単語に、「電気羊」という聞いたこともない単語を結びつけ、「夢を見るか」という命題を投げかける。

どんな物語なのだろう、と興味を惹くにはこれほどまでにないタイトルです。『流れよ我が涙、と警官は言った』もたまらなくカッコいいですが、この辺もディック人気を支える一要素ではないかと勝手に思っています。

しかも映画としても「ブレードランナー」というSFの不朽の名作がある。映画はまた原作と異なる部分も多々あるわけですが、何も知らない地方出身の大学生にとって、文学系の人間が通らなくてはいけない道のように思っていました。

といいつつもそんなにディック作品を読めていない怠惰な僕は、挑戦すべきSF大家として、ディックをずっと認識しつつも、そのまま歳を取っていました。

※ディック本人をテーマにしたら止まらないくらい彼自身が興味深い人生を送っているようです。こういう作家は伝記も読めたら楽しいだろうな、なんて思ってます。

そして、Kindleで偶然目についた『ユービック』を今回手に取りました。
『ユービック』は、彼の中期の人気もある中編です。
先述の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の翌年に書かれています。
とにかくハードルの低い作品を、という及び腰な僕の基準にあったのも決め手でした。

『ユービック』の世界観

SFの醍醐味なのでしょうが、読み慣れない私はあまりに奇抜な設定が多くて、最初戸惑いました。

…(中略)…読心能力者(テレパス※ふりかな)が足跡を消した。

のっけからテレパスってのは、なんか読心能力のある人たちなのか、これってサイエンスなのか、とかとか、頭にクエスチョンマークが踊ります。

村上春樹の小説も失踪から始まる物語が多く、ミステリー要素が読者を引き付けたと思いますが、

SFミステリ
ハードボイルドミステリ
純文学ミステリ?

などミステリー要素というのは、メインジャンルを決めた後に掛け合わせると、効果的なのかな、なんて思いながら読みました。
※ この作品は、最初の失踪の謎を読み解いていくのか、と思いきやそうでもありませんでしたが。。。

面白い設定なのは、先述の読心能力者もそうですが、何か超常的な能力者が沢山いることです。

・不活性者(イナーシャル)
・覗き屋(ティーヴ)
・予知屋(プレコグ)

車が空を飛んでいたり、アンドロイドが人間を助けている、など、単に未来的な産業デザインをすれば、サイエンスフィクションではあるのでしょうが、
本作の場合、非科学的とも言える設定が存在して、幻視的な自我のゆらぎと現実のはざまが描かれます。

科学とは相容れないような形而上学的な精神世界が読み取れるところがSF要素と同時に楽しめることは、彼の作品の特徴なのかなと思いました。

また、こうした能力者とは別に「半生者」はとても文学的な設定と読めるでしょう。死んだものが、生きてる人と短い時間お話ができるという、生と死のはざまの存在です。
文学的なアイテムとしては、一般的に幽霊や亡霊的な扱いをされるものだとは思いますが、新しい概念として提示されています。

『ユービック』のあらすじ

超常的な能力者が跋扈する世界では、その能力者の能力を中和することにも需要が生まれます。

ランシターは、能力を中和可能な不活性者を利用して、そういった人々の要求に応えてきました。

ある時大きな依頼を受けて、沢山の不活性者を集めて月へ向かうこととなりましたが、その際に攻撃を受けてメンバーはダメージを負います。

超能力測定技師でもありランシターの右腕のジョー・チップは、全てが退行していく(時代が遡っていく)世界でランシターとのコミュニケーションを試みます。

どうして世界は退行していくのか。
そしてユービックとはなにか。
誰が死んで誰が生きているのか。

こんなあらすじです。

『ユービック』の率直な感想

まず、中盤がまどろっこしく感じて、連続して読むのがとても困難でした。

ジョー・チップが退行する世界で、戸惑いながら謎解きをしつつ、ランシターと会うために試行錯誤するのですが、その描写がとても長い。

細部に神は宿るのであって、このプロセスの描写の線密さが、この小説の偉大さであり、素直に作家の創造力に圧倒されました。

しかしそれが謎が解けないま続くので、集中力が続きません。
さらには仲間の不活性者が七人の侍の如く、色々な能力をもって現れるのだけれど、キーマンとなるパッド以外は、登場人物の全く名前を覚えられず読み終えてしまいました。

そしてユービックとはなんなのか、ランシターとチップはどういう状態なのか、謎解きが終盤に行われるのですが、最後の最後に謎を深めて、物語は幕を下ろします。

読者の解釈に委ねられることは、ままあるわけですが、完全な腹落ちしないまま、その後の物語も読み取れないまま終わった、と感じたのが素直な感想です。

まだまだSF慣れしない身体が、違和感ばかり伝えてきます。
まだ見れていなかった映画「ブレードランナー2049」を間に挟みながら、SFに身体を委ねた1週間でした。
まだまだ短編も含めてディックを読んでいきたいと思います。


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