【読書】日本近代文学リベンジその15坂口安吾「アンゴウ」
坂口安吾は人物が面白い
坂口安吾は、とても多彩な作品群を残しています。『白痴』や『堕落論』で知られてますが、風土記や歴史物などの毛色の異なる書き物も多数あります。
最近はせっかくならば好きな作家の作品を読もうとリベンジ色が薄れてきていますが、代表作以外があまり読めていない、という意味で安吾へのリベンジとなります。
作品群をあまり多くは読めていないものの、個人的には生き方やテーマや好きで、小説そのものより、人物としてシンパシーを感じてきました。
自らの過去を振り返ったエッセイも好きで、
ただ文学が好きな勉強の虫、というよりは、運動神経が良かったり、破天荒で優等生ではない振る舞いもあって、東大を出て学者にもなれそうな小説家たちとは一線を画しているように感じます。
そんな人間らしさが安吾の魅力です。
太宰治の写真とルパン
太宰治が椅子であぐらを組んだ写真は、銀座のバールパンで撮られたものですが、太宰よりも安吾の方が気になって実際のお店に若い頃行ったことがあります。
ルパンで写真家の林忠彦と坂口安吾が話をすることで、かの有名な元祖ゴミ屋敷のような坂口安吾の写真が撮られた、というようなエピソードもどこかで読んだように思います。
私がルパンへ足へ踏み入れて最初に頼んだのは、安吾が飲んでいたという、ジンフィズに卵黄がはいったカクテルでした。
卵黄がなんとも言えない濃さで顔を顰めて飲んだのですが、当時背伸びをしていった銀座の自分と重なって、苦々しい思い出として残っています。
「アンゴウ」を読んでみた
今回とりあげるのは、「アンゴウ」。
純文学的ではない推理小説短編のようなものです。
ちなみに、安吾の本名は、炳五(ヘイゴ)といい、Wikipediaでは教師から暗いから暗吾(アンゴ)といえと言われたことがペンネームに繋がっている、と書いてありますが、『アンゴウ』というタイトルも安吾という名前を想起するな、と思って読み始めましたが全くそういった関係はありませんでした。
「アンゴウ」は、暗号を指します。
戦後間もない時に、主人公は古本屋で、戦争で焼かれた自分の蔵書にもあった懐かしい本を見かけます。
よくみると、それは戦争で亡くなった友人の蔵書のようでした。
本には一枚の紙片が挟まっており、そこには暗号らしきものが書かれていました。
まず彼の頭に浮かんだのは、自分の妻とその友人が暗号でやりとりしていた可能性でした。
しかし、色々と確かめていくうちに驚くような事実がみえてくる、そんな話です。
あまり安吾=暗吾らしくない、暗さを感じさせない作品です。
性的な描写や観念的な記述があるわけでもなく、現代的な身近な小さなミステリーとも言える作品です。
つまり大衆的な推理小説を目指した作品なのかと思っています。
最後のオチもまさかのハートウォーミングな結果で哀しさは感じつつも、気持ちのいい終わり方でした。
安吾の多様性
冒頭に書いたように安吾の作品は、文体もテーマも全く異なるような種類のものが多数あります。
『白痴』を筆頭に純文学的な観念的に女性との関係性を透明に描くような作品も好きですが、デビューした「風博士」などはナンセンスな少しコミカルさすら感じる作品だったり、「堕落論」のように息遣いを感じるほどに熱のこもった文章もあります。
個人的には、古さを感じさせない過剰な饒舌さがあって、そこから現代性を見出せそうな気もしています。
シンパシーを人物として感じるとつまらぬ文章も楽しめたりします。
あのゴミ屋敷で薬漬けになりながら、筆を走らせた小説家の生き様は気になりませんか?
安吾の躁鬱な生き方は、ハイな人もダウナー系の人も楽しめる魅力があると思います。
また異なる安吾の顔を紹介できればと思います。
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