短歌+ショートエッセイ:ねむけを乗せて
ひとびとのねむけを乗せて車庫へゆく回送列車は夜に染まって
/奥山いずみ
次は終点、○○です。この列車は車庫に入る回送列車になります……。
電車が駅に着く前にこんなアナウンスが入った。車内に乗客はまばらで、人が少ない電車がやけに明るく感じられた。
車窓から見える景色は、黒地に光の粒を散りばめた、夜の町文様。背の高いビルが少ないので夜空がのったりと見えていた。
やがてホームの光が「こんなに照らさなくても」というくらい目に飛び込む。電車の速度が落ちていくなか、人々はスマホを片づけたり、あるいはぼんやり外を見たままだったり。
わたしは眠気が全身に染み渡っていて、本当はこのままうとうとしていたい気分。外へ出なきゃいけないのがおっくうだなと思いながらも、電車のドアが開いたのでホームに降り立つ。電車の外は肌寒い。
しばらくして乗客を降ろし終えたのだろう、電気の消された電車がゆっくりと動き出す。真っ暗な電車はそれまで自分が乗っていたものとは全くの別物に見えて、わたしはその電車が別世界へ行ってしまうような不思議な感覚を覚えた。
Cover photo by Marc Linnemann on Unsplash
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