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小説版『アルイミライ』 -とあるアルコール依存症者の手記-
まだ生きてる、まだ変われる。
“やり直す”に“遅い”はない。
アルイミライ
私は、アルコール依存症だ。
世の中的には「アル中」という言葉がよく使われることがあるが、私たちが言う「アルコール依存症」とは少しイメージが違うかもしれない。
*
元々、私はお酒が大好きだった。
少し昭和感のある居酒屋で、おすすめの美味しいおつまみをこれまた美味しいお酒で流し込む。
その瞬間に感じる「満足感」
満たされるココロとカラダ。
酔ってきた時に感じる、脳もカラダもふわっとする感じ。
あれもたまらく好きだった。
家では、好きな映画などをみながらコンビニで買ってきたお気に入りのおつまみと缶チューハイで乾杯。
これもまた私を素敵なトコロへと連れていってくれた。
*
お酒はちょうど良い具合で飲めば最高な気持ちにしてくれる。
けれど、私はいつからか一度飲み始めると自分では飲むことを止められなくなっていた。
金曜の夜から飲み始めて、終電を逃し、朝まで飲む。
そして、始発で帰ればいいものの「現実」というひどく苦しいものから何とかして逃げたくて、また飲む。
そして夕方になり、夜になり、気がつけばまた朝になる。
でも、まだ私はひたすら飲み続けた。
「どうしてそこまで飲むの?」
それはもう自分ではよくわからなくなっていた。
*
あなたはお酒の失敗をしたことがあるだろうか?
私はたぶん黒歴史と呼べるような失敗をたくさんしてきてしまった。
記憶を飛ばし、物を失くし、時には人間関係にもヒビが。
先ほども書いた通り
「お酒はちょうど良い具合で飲めば最高な気持ちにしてくれる。」
そのちょうど良い具合で止められない結果、ひどく泥酔する。
ココロのリミッターが外れたのか、シラフでは絶対しないようなことをしていまい他者に迷惑をかける。
そして、二日酔いに苦しむ中、その朧げな記憶にさらに苦しめられる。
「このまま消えたい」
お酒で失敗をした後、何度そう思っただろうか。
でも、ひどくココロもカラダも苦しんだ次の日には、またお酒を飲んでいるのだ。
*
自分で言うのはなんだか恥ずかしいものだが、人生においてお酒絡み以外の失敗はあまり記憶にない。
それくらいお酒絡みの失敗が多いということだろう。
私は、自分がお酒さえ飲まなければひどい失敗もしないし、こんな苦しい気持ちになることもない。
そう頭ではわかっていた。
けれど、押し寄せる現実、明日、未来。
そんなものの前に、私はお酒に屈するのだ。
ある意味、お酒に踊らされている人生だったのかもしれない。
*
またお酒絡みでひどい失敗をしたある日、二日酔いに苦しみながら私はこう思った。
「ここまでくると、もう私は何かの病気だな」
アルコール依存症という病気については前から知っていた。
けれど、私は見てみぬフリをしてきたのだ。
「お酒をやめるくらいなら人生をやめる」
そう思っていた節があるからかもしれない。
けれど、もしお酒絡みの失敗がなくなって、この苦しみから解放されるとしたら?
お酒を飲めなくなることはとてもしんどいものだが、私は人生を変えたくなった。
初めて、アルコール依存症というものに向き合おうと思ったのだ。
*
今まで生きてきた人生は変えられない。
過去の失敗も黒歴史も変えられない。
もしかしたら誰の記憶にも残っていないかもしれないけれど、自分の失敗は永遠に自分の人生につきまとう。
いつか誰かにその失敗を掘り起こされるのが怖いと思うこともある。
けれど、未来はまだあるのだ。
それは、私がまだ「生きている」から。
*
こう思えば、今まで真剣に向き合ったものもあれば、見てみぬフリをして向き合ってこなかったものもある。
“アルコール依存症”だとハッキリ認識して治療を始めた私は、今まで見てみぬフリをして向き合ってこなかったものと、この機会に向き合うことを決めた。
「人生やり直したい」
そう思ったことは数えきれないくらいにあるが、過去の人生は変えられない。
けれど、未来の人生は変えられるかもしれない。
その事実は、私に生きる希望のようなものを与えてくれた。
*
これからどうなるかはまだわからない。
お酒を飲みたい衝動に負け、またお酒を飲んでしまうかもしれない。
またひどい失敗をしてしまうかもしれない。
けれど、この一度真剣に向き合ったという事実が変わることはない。
そう思えば、この先もなんとかやっていけそうな気がしてくる。
まだ生きてる、まだ変われる。
“やり直す”に“遅い”はない。
これからの私の人生は、まだまだ続いていくのだ。
-fin-
あとがき
2021年、最後の作品となりました。
今年もたくさんBot0-んの作品に触れていただいてありがとうございました!
2022年も、どうぞよろしくお願いします。
【MV】アルイミライ / Bot0-ん feat.flower
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