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安西徹雄『英文翻訳術』

読みかけて放置していた安西徹雄先生の『英文翻訳術』やっと読んだ。著者は10年以上前に亡くなっているのだが、いまだに取り上げられることの多い名著である。

昨日とりあげた鈴木健士先生の翻訳書に触発されたというわけではないけど、わかりやすく訳すとはどういうことか急に気になったのである。

そして内容だけど、大原則は思考の流れに沿って前から後ろに訳すこと。これが難しくなるのは、日本語にはない関係代名詞で、名詞の前に持ってきてそのまま訳すと読みづらいことこの上ない。
非限定用法であれば、そのままつなげて訳せばいい。
限定用法のときは、非限定用法と同じようにできることもある。
あるいは接続詞を補うとうまくいくこともある。
また関係代名詞のところでいったん文を切って、後ろから説明を付け足すようにする。
どうしてもうまくいかないときは、文を解体してしまって再構成する。こうすると意味が少しずれるリスクがあるが、そこは読みやすさとトレードオフですな。また訳文が長くなりがちだが、それはむしろ望ましいことってのは知らなかった。やや説明的になって長くなるのは不自然なことではないみたい。

あとは無生物主語ね。これは主語述語に開いて訳すべし。またこれに関連して、形容詞は述語的だったり副詞的に訳すと読みやすくなる。名詞に仮定が入っているときも文に開いたほうがいい。その一方で、代名詞はなるべく訳さないのがいいっぽい。

面白かったのは、受動態の訳し方で、英訳するときに受け身は能動態になおせとよくいわれるけど、和訳するときも能動態にしたほうがいいことは多い。もちろん受動態のままのほうがいいことも多々ある。学術論文なんかは受け身のままにして翻訳調のほうがいいだろう。

翻訳調といえば、私は英文直訳調の日本語を書くのが好きなのだが、これ読みにくいよね。先輩に読者への愛情が感じられないと指摘されたこともある。
構文を理解できていることをアピールしなければいけない入学試験の和訳じゃないんだから、読みやすさを重視すべきだ。ときどき逐語訳っぽい文章を見かけるが本当に読みづらい。例えば、大昔にケインズの一般理論を読んだときは辟易して一瞬で読むのをやめてしまった。後に山形浩生さんの訳がでたときに購入したんだけど、断然読みやすくなっていて感動したものだ。


英日翻訳をこうして見てくると、日本語についてもよく知っていなければいけないと思う。山形さんなどは日本語もお上手だなあと思うのである。

また日本語と英語の違いを意識することによって、英訳とか英作文も上達するような気がする。無生物主語とか主語や述語に仮定法を入れるという日本語にない特性はかっこいい英文を書く上でぜひとも知っておきたいところだ。
かっこよく英語を書くについては鈴木健士先生のこの本を読むといいですよ。


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