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山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』読んだ

韓国政府が昨年末に発表した人口の長期推計では、前提となる今年の出生率は「0・68」を見込んでいた。25年は0・65とみており、さらに下がるとの想定だ。

東アジアでは少子化が話題にならない日はなく、少々のことでは驚かないが、韓国の数字は衝撃的すぎるね。。。

そういうわけで少子化シリーズいきましょう。

著名な家族社会学者であり、政府の政策にも関与してきた山田昌弘氏の新書。

コロナ前に出ていたが、今ごろ読んだ。Kindle Unlimitedだよ。

トゥイッターランドに棲息する賢明な諸氏ならだいぶ前から知っていたことばかりなのだが、やはり真っ当な社会学者が出版するとそれなりにインパクトがある。

なぜ少子化対策が失敗したのか。まず初動の遅さである。ボリュームゾーンである団塊ジュニア世代がまだ繁殖できるうちに手を打たなくてはいけなかったが遅きに失した。

さらに著者自身を含め、政策立案に関わる人々が未婚者の生の声を聞いていなかった。彼らの周囲にいる女性は東京でキャリアを積み上げてきた、あるいはそうしたい女性たちばかりであるから、共働き支援が少子化対策になると思ったのだろう。

しかしそんなのは上澄みにすぎないのであって、マクロな出生率に与えるインパクトは限定的だった。。。と著者は反省している。。。反省しているが、周囲にそれを漏らすと聞かなかったことにされるか、さっぱり理解してもらえないらしい。

この失敗の原因の一つは、かつては人口学者であっても、いずれみな結婚すると考えていたことだ。つまり晩婚化しているだけであって、結婚しようと思えばみな結婚できるし、問題はそれによってどれくらい完結出生数が減るかと考えていたようだ。

その根底には欧米的な発想、つまりどんな条件であれ、愛があれば結婚するはずだというロマンチックな発想があった。

そのような発想の下では、夫の収入が低ければ女性も働けばよいとなるし、そのための共働き支援だったはずだ。

ところが東アジアでは、世間の目を気にしすぎるあまり、男性に求める条件が厳しい。そもそもほとんどの女性はゴリゴリ働く気はないのだから、世間体など気にしなくても、求める条件は厳しくなるのである。

スウェーデンでは、大多数の女性がNOと答えるのに、日本ではYesと答えている人が圧倒的に多い。「夫は収入を得る責任を持つべきだ」という項目に対して、フルタイムで働く女性でも、約85%が、Yesと応えている。日本では、結婚後の生活を夫の収入に依存することを当然と見なす人が多いのだ。つまり、あえて働いて自立する必要はないと思っている女性が多いことが分かる。

これに加えて、親が自分にしてくれたように子供も育てなくてはならないという完璧主義が未婚化に拍車をかける。

男性は稼げる大人にならないと子供を持たない、あるいはそもそも結婚しないし、女性もそういう男性が見つからなければ独身でい続けてしまう。

個人的にはこれはもうどうしようもないと思うが、著者は価値観は変わるときは変わるはずだと控えめに主張する。

その例として、かつては非常に世間体が悪かったできちゃった結婚が、おめでた婚などと言われて、恥ずかしいことではなくなりつつあることを挙げている。お隣の韓国はまだまだ恥ずべきことらしく、これが韓国が日本よりいっそう出生率が引くい一因かもしれない。

それと今の30代、40代は経済格差が拡大する現実の中でも、まだ中流幻想を持っていた世代である。だから親と同じように子育てしないといけないというこだわりがあった。

だがあまり豊かでない家庭で育った大人が増えてくれば、そのような完璧主義から離れて、カジュアルに子作りするかもしれない。沖縄の出生率が相対的優位を保っているのもそうした事情であろう。

とはいえ豊かでない人々はあまり子供を持たなくなりつつある今、カジュアル子作り向きな人々もそう多くはないのかもしれない。

どちらの要素が効いてくるのかはわからないが、私はあまり楽観的にはなれない。

というのも少子化は近代化の宿命だからである。

コロナ騒動を経て、先進国(イスラエル除く)の少子化対策が、たんに東アジアよりマシというだけであって、けっしてうまくいってないことがはっきりしてきた。それどころかサブサハラを除く途上国まで少子化が急速に進行している。

本書はコロナ前に書かれたものだから、欧米の少子化対策は奏功したという前提である。今はどう考えておられるのだろうか。



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