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尾身茂『1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録』 視野狭窄に陥った気の毒な人々の記録だった

3年前のこの記事に尾身茂氏にはぜひ回顧録を出してもらいたいと書いた。

そういうわけなので今年9月に出た回顧録を購入したのである。

おおむね時系列に沿って書いてあり、さらに各章の冒頭にまとめがつけてあるので読みやすい作りになっている。しかし、なんなんこのおっさんという怒りが頁を捲るたびに発生するもんだから、けっして読みやすくはなかったのである。

なんでこんなに苛つくかというと、この人は自分がなにを言っているかわかっていないのである。

例えば本書でもこの記事でも、自分はオリンピック中止を提案したことはないと言っている。つまり政治的な領域には踏み込んでいないと言っているのだが、無観客で開催すべしと提言したことも事実である。つまり開催そのものは政治的判断だが、観客を入れるか入れないかは政治的判断ではないと思っているらしいのだ。

もしかして、もしかしてだけど、この人めっちゃ頭悪いんじゃ、、、いやまあそんなすごい知性の持ち主だとは思ってなかったけど、WHO西太平洋事務局長まで勤めた人物がまさか、、、

とはいえ、私は尾身氏が専門家を取りまとめ、政府とやり取りする立場にあったのは良いことだったと思っている。他に適任者がいたとは思われない。

本書で明らかにされているように、専門家グループも政府も自治体もリソースが不足していた。デジタル化の遅れ、個人情報へのアクセス制限、専門家集団の法的位置づけの曖昧さなども足を引っ張った。そういう中で尾身氏のリーダーシップは欠くべからざるものであったろう。

だがそれは免罪符にはならない。

というわけで山ほどあるツッコミどころのいくつか紹介しよう。

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