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現実との照合

※近未来IT小説です。アプリ加工はほどほどに。


現実との照合

「この写真本物?」
「い、いやまさか!アプリだよアプリ。妄想だけならいいだろ別に。誰にも迷惑かけてないんだから」

夫から取り上げたスマホには大量の写真が保存してあった。
見たことのない女性と2人、楽しそうに旅行している写真だ。
昔の女かと思ったが、どうみても映っているのは最近の夫だ。
どう見ても観光地のツーショット写真。

そもそも、生活費が苦しいからトモ子もパートに出ているというのに。まさか浮気?しかも旅行なんてありえない。

「へえ、アプリ?よくできているわね~」
抑揚のない話し方は怒っている時の特徴だ。顔をみないようにしながら男はコーヒーカップを握り直し、笑おうとした。
「そうだろ?俺も知らなくてさ。ちょっと気分転換というか。アイドルとのツーショット気分というかさ」
「ふーん。よく見つけたわね、こんなすごいアプリ。あなた、良い笑顔してる。写真が苦手だっていってうちにあるのはムスっとしているのばかりなのに…」

「あ、それは後から笑顔に変えられるらしくって、教えてもらって、いや」
しまった、という顔をする男。同期の女性に飲みの席で教えてもらったなんていったら余計怪しまれるに違いない。いや、彼女とは何もないのだ。ただ会社の飲み会でたまたまいつもとなりの席になるだけだし、たまたま駅も一緒なだけだし。ちょっとしたストレス発散についてバカみたいな話をしあってちょっと話が合うというか、それだけだ。うん、それだけに違いないのだ。何も後ろめたい事はない筈なのに冷や汗が流れた。

妻はそれに気づいていないようで、まだスマホ画面をスライドさせて、時々タップして写真をながめている。
もうだめだ。あのスマホは返してもらえないかもしれない、どうしよう。

無言の時間にひたすら耐えているとようやく顔をあげた妻は
「そうなの。疑って悪かったわ。でもあまり気分は良くないわね」
ため息をつきながらスマホを返してきた。男はホッとした。
「そ、そうだよな。うん。悪かったよ、、、もうやめるよこーゆーのは」
いそいそとスマホをポケットにしまいながらしどろもどろに答える。

良かった。
妻はアプリで合成したと信じてくれたようだ。喉に水分が足りない。冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
妻は隣に座って同じように冷めたコーヒーを口に運び、笑顔になった。
許してくれたようだ。
夫も情けない笑顔で答えようとすると笑顔のまま妻は言った。

「で?誰に教えてもらったって?」
男は今コーヒーを流し込んだばかりの喉がカラカラになるのを感じた。


解説と未来考察

後から笑顔に加工するアプリはもうありますね。次は有名人と合成できる有料アプリが出てきて、現状のように合えない状況でも、アイドルに課金することでそれぞれの生活を潤すことが可能になるでしょう。
次にくるのは有名人ではない、駆け出しのアイドルや一般人がモデル登録し、課金してくれた相手とツーショット画像を作れる。そんなアプリが出てきて、世の中を賑わすのではないでしょうか。印刷不可、転送不可、という技術が必要ですけども。

加工した写真か現実に撮った写真かを判別するアプリや技術も発展するでしょうね。写真は当分人類を楽しませてくれそうです。


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