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古草紙昭和百怪9 令和2年師走「心霊シリーズ 遊魂が受けたショック」(「週刊スリラー」昭和34年)/ 令和3年睦月「人間レーダー 藤田小女姫」(「週刊スリラー」昭和34年)

「心霊シリーズ 遊魂が受けたショック」(「週刊スリラー」昭和34年)

 鮮やかな盈月に彩られた万聖節が、年に一度の洋書市に当る巡合せ。悪疫をかそけみ見送る積りも、植草日記を拾ひ読む内に翻心、最終日夕方に覗いてみました。補充がなされたのか、棚に目立つ空きが無いのも幸ひ、最近上梓に気付いたばかりのカッシング写真表紙版レ・ファニュ他、綺譚集を十冊ばかり落掌。何せ、探偵や空想科学小説に限り七十年代迄の小型略装本が並ぶ壮観は、他所で叶ふはおろか、頃日のぼってりした厚冊さへ街中の古書肆ではまづ見掛けぬ有様ゆゑ、正しく千載一遇と深謝。毎年一冊は実話集に邂逅できるのも通例、今回は御馴染カート・ジンガーでした。

 同書にも収録ある海洋綺譚、前回に続き、関連する切抜を探せば、「特別レポート 幽靈船『春日丸』とその家族たち 南太平洋に消えた二十二人をめぐるナゾ」。こちらは「週刊スリラー」(昭和34年10月16日)巻頭(10~15頁)と、裏面9頁の目次から判明。但し、漁船が行方不明になった事故を正面から取り上げた内容で、お化けは出て参りません。そこで代りに、同号のコラム「心霊シリーズ 遊魂が受けたショック」(34頁)を。「今から四年ほど前の春先、大阪天王寺に住む霊者……は、瞑想に入り、いつものように遊魂した。側近の者が肌に触れてみると仮死状態然として冷たいから判るのである。…。そして覚セイしたとき、右腕に打ボク傷のときよくみるアザができているのに気付いた。」「……それから十五分…、一人の信者が血相変えてとび込んできた。『教祖はん、只今は生命びろいさせて貰うてホンマに有難うございました』…、……阿倍野附近を自転車で通行中、大きな石をよけそこねて倒れかかった。とそのとき不意に」「教祖はん」「が現れドンと男を突きとばした。…。転んだ刹那、うしろから物スゴイ、スピードで来た自動車が、男の自轉車をまともに轢き、はね上げた。…。結局、…腕にできたアザは、信者を突きとばして救った際、自転車のハンドルにでも擦ってできたのだろうということになった。」「霊体が受けたショックが、肉体に痕跡を残すという現象は、催眠術を応用した心理学でも実験されている」由。
 この週刊誌、版元は森脇文庫と初めて知りました。道理で、森脇将光本人が連載を持つ所以も氷解。コラムの導入部で黒住宗恵に言及あり、ひょっとして信者だったのでせうか。
令和2年12月1日 (火)

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「人間レーダー 藤田小女姫」(「週刊スリラー」昭和34年)

 同じ「週刊スリラー」に掲載の「徳川夢声連載対談 人間レーダー 藤田小女姫」(昭和34年10月16日 漫画・小島功 写真2点 カット5点 16~20頁)。この連載は当初「スリラー対談」と題したらしいものの、本号は既述の角書に変更。また、目次では25回目ながら、記事そのものには明示がありません。実は夢声は旧懐回想の他は殆ど目を通してゐない為、この対談が後の書冊に収録されたか不明。昭和28年以降も何度か上木の機会に恵まれて来た「問答有用」以外に対談集は容易く見付からないので、或は紹介に値するかとも。
 後に長男共々殺められ新たに喧伝されたこの占ひ師、肩書に曰く「霊感予言」。一方、写真説明文には「インスピレイション予言は天才的。」。「昭和13年福岡県博多に生る。」とあり、取材時でも未だ21歳に過ぎません。それでも「政界の巨頭、実業界の巨頭などが、彼女にお伺いをたてている。とにかく、毎日、門前市をなす盛況であることは事実である。(夢声前白)」。「…小さい時の方がもっと口数が少なかったです。…例えば…ぜんぜん目に現さないで、…『あの人は金魚だよ』なんて、よその奧さんを批評しちゃうんです。するとみんな、金魚ってなんのことだろうと考え込んじゃうんですよね(笑)/ 『金魚ってのは、綺麗でヒラヒラしているけれども、ほんとうは食べるところのないお魚なんだ。あの奥さんもやっぱり金魚みたいに、みかけはキレイな人だけど、にても焼いても食べられない人だ』そういうことをひょいと云うんですね。」「…、夫婦別れの話をもちこまれた時にも、自分では意味がよくわからないのに『貴女の方がヌカ味噌に、もっとおいしくつかりなさい』って云ったこともあるんですね(笑)。」「小さい時は、六十人でも八十人でも疲れないから見られたんですね。」と夙に荒稼ぎの模様。本来、正体不明の「他国坊主」の方が有利の筈ながら、昭和の歩き巫女は稚き頃から特技を育む事で、この桎梏から逃れたのでせう。
 ところがその「予言」の拠って立つ所は、当の本人すら甚だ心許ないのです。「小女姫はわたしのことじゃなくって、なんか霊の名前ですからね。」「…、神秘的なことを云えば別の霊か魂があって、いざ人を見るという時に、いい言葉がでるよう、準備しているのかもしれませんね。」挙句が「…、無理強いされると、ぜんぜんインスピレイションがでてこないんですよね。そんな時、わたくし自身、とっても苦しむんです。」今となっては、かくも虚名を馳せ得た影の演出家こそ気になるところ。
令和3年1月1日 (金) 

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