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意識が高いだけだと業界の標的にされてしまう! 『食品添加物はなぜ嫌われるのか』

「食品添加物」を毛嫌いしている人たちは多い。ところが、それがどういうもので、なぜ嫌いなのかをきちんと説明できる人は少ない。彼らが「テンカブツ」と言うとき、なにをイメージしているのか、どうなることを望んでいるのか、いまいち分からない。

本書は、「食品添加物」を含めた「食品情報に関するリテラシー」を身につけるための入門書である。

まず、各章のタイトルを列挙する。

第1章 終わらない食品添加物論争
第2章 気にすべきはどちらか 減塩と超加工食品
第3章 オーガニックの罠
第4章 新しい北欧食に学ぶ
第5章 国際基準との軋轢
第6章 食品表示と食品偽装
第7章 プロバイオティクスの栄枯盛衰
第8章 食品安全はみんなの仕事 すべての人に適切な情報を

第1章で挙げられている例として、日米で認可されている食品添加物の数を比較したエピソードがある。大雑把に言うと、「日本では800種類くらいしか認められていないのに、アメリカでは3000種類も認められている!」という主張がある。これだけ見ると、アメリカではいろいろなものを添加物として認めていて安全性が確保されていないように感じられる。

ところが。

著者はそうではないと言う。

まず、日本側の「800種類」は「指定添加物」と「既存添加物」を基本に数えており、「天然香料」「一般飲食物添加物」は含んでいない数字のようだ。対するアメリカ側の「3000種類」には米国で「食品に加えられるすべてのもの」から導かれたのではないか、と。比べられるはずのないものを比べているところが間違いだと指摘する。さらに、

食品添加物の数が多いことが食品が危険である証拠と主張していますが、逆でしょう。GRAS("Generally Recognized As Safe" 一般に安全と認められている)や食品添加物としてきちんと評価されているものの数が多いということは、それだけ多くの知見があるということで、むしろ歓迎すべきことです。たとえば日本では、塩は食品添加物として指定されていないので不純物の多いものでも販売できます。しかし食品添加物として規格を厳密に定めれば、不純物の多いものは使えなくなるのです。どちらが安全性が確保されていると言えるでしょうか?

第6章「食品偽装」については、深く考えさせられた。

まず「食品偽装の標的は誰か」。

「なんとなく雰囲気で」よさそう、と判断してしまう人たちが偽装の標的です。

「テンカブツ」を毛嫌いする人たちは、格好のターゲットになりそうである。

ベジタリアン、オーガニック、遺伝子組み換え作物反対、産地へのこだわりなどさまざまな志向があるが、そういった各種の推進団体で、

それぞれ自分たちの都合のよい項目の表示を要求する運動はあります。こうしたいろいろな政治的思惑から食品の表示は複雑で混乱したものになりがちで、そこが偽装を行なう者にとってはつけいる隙になっています。

この偽装に関しては、「グルテンフリー」問題が非常に分かりやすかったので紹介する。

グルテンは小麦に含まれるたんぱく質で、これに免疫反応を起こす病気として「セリアック病」がある。アメリカでは100人に1人が罹患していると言われていて、グルテンを含まれる食物を食べることで腹痛や下痢といった症状を呈する。対策はグルテンを含まない食事(グルテンフリー)にすることで、彼らのためにグルテンフリーの製品が作られている。

ある時期から、この「グルテンフリー」が病気のない人にとっても健康に良いという主張が流行し、そのせいでグルテンフリー食品がたくさん市販されるようになった。そして、その中には実はグルテンが含まれている違法な商品も混ざっていたのだ。ところが、セリアック病でない人たちが「グルテンフリーもどき」を食べても問題は起こらないので発見されず、市場から排除されないままになる。そうするとセリアック病の人たちにとっては、「商品の選択肢が増えたのに、信頼できないものも増えた」という状況に陥ってしまうのだ。

どの章も読みごたえがあって興味深かった。

「テンカブツ」を忌避している人にこそ強く勧める。「高い意識」だけの人は食品業界の標的にされてしまう。ぜひ「知識」と「科学的態度」を身につけてほしい。


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