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格が違う。文豪感を感じさせる金原ひとみのエッセイ「パリの砂漠、東京の蜃気楼 」

今日は平凡な1日でしたが読書は衝撃を受けました。自分の好きなタイプの本を発見できたからです。その本の名前は「パリの砂漠、東京の蜃気楼」。蛇にピアスで芥川賞を受賞された金原ひとみさんのエッセイでした。

内容は、パリ在住の金原さんが綴る、日記のようなエッセイです。しかし芸能人が書くクスっと笑わせる暖かいエッセイとは真逆の、冷たさと品位と怒りを感じるエッセイでした。悲観的な情報を投影する上品な文体にヒリヒリする感覚を覚えます。

最近、エッセイというものを好んで読んでいますが、その中でも最高の本だと思いました。中でも声をあげて紹介したいのは前半の「パリ」で発揮される語彙の豊かさです。美しく小難しい言葉が並んでいるにもかかわらず、全く外しているところがありません。全ての言葉がキッチリと正しく文章に収まっている。この芸術性だけでも惚れてしまいました。

すこしでもわからない言葉はスマホで意味を調べながら読むことになりましたが、それが秘密を明らかにしていくようで面白い。好きな女性の情報を集める内気な男性のように、少し執着して言葉を調べました。

【逡巡】決心がつかず、ためらうこと。しりごみすること。
【弛緩】ゆるむこと。たるむこと。

たまたまメモした言葉を2つ記載しましたが、このような言葉を自然と紡げる著者の語彙力に魅力を感じない訳がない。

しかも、その繊細な言葉で綴られている内容はセンシティブな男女関係やパリで起きたテロや自殺などの事件、そしてピアス。どれも非日常を感じさせ、ギリギリの世界で生きている著者の緊張感を感じます。

そして後半になると舞台は東京へ。前半の上質な文体は影を潜め、言葉は無限ループに入ります。無慈悲な日本社会から受ける仕打ちに対し、尽きなく湧きあがるネガティブな感情を、著者はただただ圧倒的な言葉に変えていく。

ただ、それでも悲しいことに、無限に嘔吐するように紡いでしまう著者の言葉すら美しい。マーライオンの口から地球の終わりが流れ出るような。ション弁小僧から本当の尿がでるような、そんなネガティブな感情が尽きることなく言葉となり流れ続けます。なのに、それすら美しい。

そして、ふと我が身を省みる。西武柳沢に引き籠る、独身古本屋店主の生活の、なんと刺激がないことか。喜びも無ければ不幸もない。心の奥底に閉じ込めた怒りのみが店主を動かしていますが、それが美しくなることはありません。だからこそ、金原ひとみさんのような破滅的な美しい文章にこころが引き寄せられてしまうのでしょうね。

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