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レティシア書房店長日誌

ドキュメンタリー映画「燃えあがる女性記者たち」

 ご承知のようにインドにはカースト制度という身分制度が今もあります。ヒンズー教に基づいて、古くから社会に根付いている制度です。その制度のさらに外側にある被差別民をダリッド、不可蝕民(インドでは約2億人)と呼びます。そんな最下層の立場にいる女性たちが立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」が、インド北部ウッタル・プラデーシュ州チトラクート地区にあります。独立メディアとして、頻繁に起こる不可蝕民へのレイプ、貧困と搾取にあえぐ貧しい農村の現状など地方の問題を取り上げ、報道してきた小さな新聞社です。

 「燃えあがる女性記者たち」(京都シネマにて上映中)は、インド出身のリントゥ・トーマスとスシュミト・ゴーシュが撮影に5年を費やして完成させた映画です。「カバル・ラハリヤ」というのは、”ニュースの波”という意味で、2002年に週刊誌タイプの地方新聞として創刊されました。その後、2016年に独自のビデオチャンネルを立ち上げ、デジタル配信中心に移行していきます。現在は、30人の女性記者と地方通信員を擁し、様々なデジタルフォームを駆使して、毎月50万人にニュースを流しています。ペンからスマートフォンに切り替えて、SNSとYou Tubeの発信を主体にして挑戦する姿を捉えています。ニュースのデジタル化に戸惑いながらも、貧困、身分制度、差別、偏見などの諸問題の取材を続けていきます。
 

 有史以前からあるとされるカースト制度の壁、確固たる男尊女卑、半分馬鹿にしたような権力者の視線をものともせずに、Iphone片手に取材に飛び込んでゆく彼女たちはとてもタフなのですが、力みがなく、しなやかに軽やかに相手に飛び込んでゆく姿は感動的です。40数名の新聞記者が近年殺害されているこの国では、危険な目に合う可能性もあるはずですが、微笑みを絶やさない彼女たちの強さはどこから来るのか。ここでは「ペンは剣よりも強し」という言葉が生きています。
 武田砂鉄は、「『なんだオマエたちは』と軽んじる表情を映し出す。周りの野次馬はニヤニヤしている。それでも、強者を問う姿勢を貫く。『あなたの国はどう?』と問われた気がした。」というコメントを寄せています。それは、私も強く感じたことでした。
 「カバル・ラハリヤ」公式HPには、こう書かれています。
     「あなたのニュースは、あなたの声で」
 
なお、本作品はサンダンス映画祭での初上映を皮切りに世界200以上の映画祭をめぐり、40にも及ぶ賞を受賞しています。


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