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レティシア書房店長日誌

藤原辰史&スケラッコ「食べる」

 福音館書店が出している子供向けの雑誌「月刊たくさんのふしぎ」の2024年1月号は「食べる」がテーマです(新刊770円)。文章を書いているのが、食と農業の近代史が専門の京大教授藤原辰史で、イラストはマンガ家スケラッコです。

子供向けと言うなかれ!「食べる」と言う行為を、ここまで大きく、広く捉えたものはありません。藤原センセが一般書籍向けに書いていたら、かなりの大著になっていたかもしれません。
 「メニューは、わかめと豆腐のみそ汁、ピーマンともやしと豚肉の炒め物、それから白いごはん」という、ごくありふれた家庭料理を食べるところからお話は始まります。スケラッコさんのイラストが食欲を誘いますよ!
 藤原センセは、先ず読者にこれらの食物がどこから、どんな風にして来たのかを問いかけます。そして「どこかのおばあちゃんがみそ汁のみそを仕込んだのならば、あなたは、そのおばあちゃんとのつながりをみそ汁といっしょに食べている。」と、食べ物だけでなく人とのつながりを食べている、と解きます。さらに育てただけでは作物や、豚や牛を口にはできません。様々なプロセスを経て、口に入るのです。
 「人類が誕生してからあなたの生きる今まで、ずっと発達してきたこの技術こそが、料理文化なんだ。そう、あなたは太古の時代から今に至る何千年もいっしょに食べていることになる。」
 スケールが大きくなって来ました。ここから著者は、家の中にいる微生物の話へと進み、その不思議な生態を描いていきます。スケラッコさんのイラストも忙しくなって来ます。
 そして、最も大事な塩と水の話へと移っていきます。「あなたの体の中の水は、昔はシベリアの針葉樹林の樹冠にかかった霧だったかもしれない。太平洋にうかぶ無人島の小さな池の水だったかもしれない。ブラジルの熱帯雨林の葉っぱの露かもしれない。くりかえし自然によってろ過されて、長い旅の果てに、あなたの口にはいって、あなたをうるおし、再びあなたから出て行くのである。」
 毎日の食物の話から、ここまで広がって来ました。そしてクライマックスは、おぉ〜ここまで言うかぁ!拍手喝采の幕切れです。「あなたのからだのなかを、毎日毎日、水と塩と食べものになった生きものが通りぬけている。そう、わたしたちは、大きな口を開けて、この星を食べている。ちょっと大げさにいうと、わたしたちのからだを、地球がゆっくりと通りぬけていくのだ。地球なんて大きすぎて口にははいりません、と笑うかもしれない。でも、あなたのなかを毎日通りぬけているのは、地球由来のものばかり。友達や家族といっしょに地球の一部を口にいれて、よくかんで、バラバラにして、外に出しているんだ。」
 そう〜か、私たちは毎日、地球を口にいれているのか!だったら、この惑星を傷つけないようにしないとね。おじさんにもよくわかりました!


●レティシア書房ギャラリー案内
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜2/24(日)北岡広子銅版画展

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