白狼の子たる修道女 あとがき
したんですよ。完結。小説の。
たぶん全部で三十万字前後。「いつになったら終わんの」とゼイゼイしながら書いていましたが、いつの間にか終わってましたね。未だに実感は湧いてないです。反省点は無限にありますが、まあ楽しかったからいっか、と開き直ってもいます。
語りたいことは山ほどありすぎて僕自身でも把握し切れていないので、「始まり」と「結末」に絞って書き殴っていこうと思います。
始まりについて
書き始めるきっかけとなったのは、逆噴射小説大賞2019。
ちょうどこの頃、学生以来ずっと眠りについていた創作衝動を『ケムリクサ』に叩き起こされて「書きてぇ~~~なんか書きてぇ~~~」となっていた僕は、イベントが終わった後にこの賞の存在を知り、遅まきながら800文字を書いてみたのだった。それがこれの冒頭部分。
この時点では、先の展望や登場キャラの過去などは何も考えていないに等しかった。考えていたのは大体こんなところ。
・優しくて綺麗なシスターのおねいさん、しゅき
・寡黙で朴訥な白髪クールビューティー、しゅき
・じゃあこの二つを合わせた主人公にしよう
・可憐な見た目で野蛮に戦う人にしよう
・めちゃめちゃ決断力のある人にしよう
・なんか変な信仰を持ってる人にしよう
・シスターが主人公ならお相手はショタだろ
これらの要素を盛り込んだ結果、僕が100%好きになれる主人公になった。その興奮に任せて、ばっと1話を書き上げることもできた。
そして書き上げた後、自分の書いた文章を改めて読み返してみて、二つの疑問が浮かんできたのだ。
二つの疑問
一つ目は、
「『私の神様』ってなんのことだろう?」
というもの。
この世で彼女しか信じていない神様とは何なのか? 神様の台詞もどこか卑近だ。もしかして彼女は身近な人を神様として崇めているのではないか? だとしたら、どんな過去ならそうなるのだろうか?
そんな風に深堀りしていった結果、「死んだ人の想い出を失くしてしまう」という設定を思いついた。
失うのは、あくまでその人の「想い出」だ。「事実」は残る。だから一層つらい。だから彼女はそれに抗うため、独自の信仰をつくりあげなければならなかったのだ。
こうしてレイチェルという主人公に軸が通り、僕は彼女のことを200%好きになれた。これなら大丈夫。この人の物語を最後まで書いていけるだろう。僕自身はそう確信した。
そして二つ目の疑問。それは、
「『彼女は躊躇しない』って書いてあるけど、本当に?」
というものだった。
結末について
レイチェルを決断力に優れたキャラにしたのは、僕自身が意志力に欠ける人間だからだ。友達と入ったファミレスで注文を決められずうんうん唸り、決めたはいいけど店員を待ってる間にそれも揺らいで、結局は友達と同じものを注文する。そういうタイプなのである。
だから二つ目の疑問に対しては、「本当であってほしいな」と願望を以って答えた。人は自分ができないことを平然とやってのける人にシビれるし、憧れる。レイチェルは僕の理想であって欲しかったのだ。
そして僕自身、そんな彼女の姿勢から学ぼうと思った。作品について「これは」と決断したことは貫徹する。躊躇しない。そういう作者であろうと誓った。
こうして物語の結末も決まった。彼女にとってもっとも殺したくない相手、想い出を失いたくない大切な相手をラスボスとしよう。そしてレイチェルには躊躇なくそれを殺してもらおう。その結末に説得力を持たせるよう、全体の流れを構築していこう、と。
……物語を最後まで読んで下さった方は首を傾げたかもしれない。そうはなってなかったじゃないかと。
そう、僕は初志を貫徹できなかった。
迷いが生じたのは【酔夢 7】を書いている最中で、その後の半年近い休載期間中、ずっとうんうん唸っていた。
迷った原因も二つ。
一つは、
「レイチェルに殺させたら、クリスに対する裁きにならない」
というもの。
罪というものには様々な位相があると思う。法律的位相、社会的位相、関係者間での位相、加害者被害者間での位相、そして加害者内部での位相……。
物語的に一番スッキリしないのは、最後の「加害者内部での位相」に裁きが下されないパターンだ。いわゆる正しい意味での確信犯。法や社会がどれだけ重い裁きを下しても、本人に後悔とか反省とかがなければ、たいていの人は溜飲を下げることができない。
それが現実だといえばそれまでだけど、娯楽作品であるならばここはスッキリさせておきたい、と僕は考えた。
クリスは自分の罪を、半ば諦めるように肯定していた。自分は獣なんだから仕方がない、という諦めだ。これをぶっ壊さなければならない。彼が同類だと信じ切っていたレイチェルが、「私たちは人なんだ」と身をもって示すことで。
それは彼にとってこれ以上ない裁きであり、救いでもあったと僕は思う。
そしてもう一つは、
「このままだと、レイチェルにとってクリスの存在は呪いとなってしまう」
と思ったこと。
初期案において、レイチェルの振り下ろした拳はそのまま彼の頭を砕いていた。【静けき森~】#17での決別の後、二人は一言も交わすことすらなく、永遠に分かれる予定だったのだ。その悲しさが美しいと思った。そこに辿り着くために書き続けてきたと言っても過言ではないくらい、僕はそのシーンを神聖視していた。
でも、ながく書き続けていると、なんというか、みんなに愛着が湧いてしまって、その悲しさに僕は耐えられなくなった。別たれてしまっても、二人は本当に大事な友達だったのだ。レイチェルはその想い出を自らの手で砕き、そして自らの手で砕いたという事実だけははっきりと記憶することになる。間違いなく呪いになる。
その呪いを良しとしてでも貫くから尊いんだ。初期案に固執する僕はそう思った。
長い執筆のなかで生まれてきた新しい僕は「凄くわかる。でも、どうしても厭だ」と思った。
この葛藤は、僕にとって忘れがたいものになったと思う。作中人物(レイチェル)の感情とほぼシンクロする形での迷いになったからだ。自己投影をあまりしないタイプの僕にしては、ずいぶん珍しい。
おこがましいかもしれないが、作品にREALが伴うとはこういうことなのかな、と思った。
結局、レイチェルと僕は決断を翻した。当初からの作品のテーマには反することになったが、これで良かったんだろうと思う。
そしてこのような過程を経たおかげで、レイチェルは30000000000000%大好きなキャラクターとなった。ありがとう。おつかれさま。
続編について
確約はできませんが、続編はそのうち書くと思います。
本シリーズは七つの大罪をモチーフ(テーマではなくモチーフです)としており、クリスを中心とする一連の物語は、題するならば憤怒篇。つまり最低あと六つある。
いくつかはぼんやりとした構想も浮かんでいて、たとえば傲慢篇(冒頭はすでに書いてあったりする)、色欲篇(レイチェルさんサキュバスモードとか出したい)、暴食篇(人狼ゲームものになりそう)とか、こんな感じ。
各篇には、レイチェルやバルドのようにそれぞれのモチーフに合わせた超人(僕は『罪人』と呼んでいます)を用意し、そいつを軸に話を編んでいくつもりです。どんな奴が出てくるか僕も楽しみ。
しばらくは単発の短編とかでプラクティス・エヴリデイしようと思いますので、実際にとりかかるのは先になりますが、もし気になった方は気長にお待ちいただけると幸いです。
最後となりましたが、拙作を読んで下さった方、スキをして下さった方、感想を下さった方、サポートをして下さった方、書き続ける力をくれたすべての方々に、心より感謝を申し上げます。
(エル様はまだエルガルディアを飛び回っているので不在です)
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