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アッシュルバニパルの皇帝 序章

 地平線の大地ははただ一本の線によってオレンジ色の夕焼けの空と区切られていた。夕焼けという概念は24時間続き、そのあと48時間の概念の夜がやってくる。24時間の概念の朝のあと昼の概念は夜とおなじように48時間続く。

つまり、1日の単位はシュメール人たちが考え出した24時間ではなく、144時間だ。

この惑星の自転スピードがゆっくりになったからか?
いや、その真逆だ。
自転スピードは数万年前の大昔、1937年に1日の長さが8万6400秒以下になってから時々早くなる年があった。

大洪水による箱舟騒動以来、人は言い伝えるべき出来事を歌い、歌だけではなく、次第に書物に残すようになった。

奢った人びとは、天空まで届くほどの塔を建造し、その中に何十万、何百万という数の書物を納めた。

天にまします我らの父はそうした馬鹿げた人びとに怒り、雷鳴と共にその塔を壊し、止まることのない欲望の建造をやめさせるため、血の繋がりを持つものどうしのみが言葉を理解できるようになさった。

───

 僕は惑星アッシュルバニパル図書館で日記を思いつくままに書いていた。

この惑星は数万年前から、大して調べたわけでも深く考えたわけでもない、つまり何のメリットもないもので世の中のあらゆる文字は酷使されていた。
ちょうど僕のこの日記のように。
文字は利用するのにこの惑星の共通通貨では1文字1スピカかかる。
文字の消耗の動機づけは暇つぶし、あるいは宣伝、あるいは色褪せたノスタルジーによる衝動、そんなところだろうか。
消耗のために誰かの知識データベースを安く買い取るか、騙して横取りするか、聞き出してあたかも自分のもののように見せるか、聞き出す過程そのものを文字にする。
何の為にそんなことをするのか?
僕にはわからない。頭のネジが2、3本緩んでいるのを締め直す為の暇つぶしがてらの訓練かも知れない。
とにかくありとあらゆる文字はこのようにして無駄遣いされるしかない。

何故なら1日が144時間だからだ。

この惑星では時は金なりではなくなっている。
文字は金なり。
あらゆる公文書も金次第で好きなように書き直せる。例えば、21994年8月生まれの僕も1文字分のスピカを支払えば、2を消して1994年にできる。人口の出生死亡率に関わるあらゆるデータは改ざんしにくく社会の歪みや変化の指標になりやすかった時代は古き良き破壊の時代であって、今はこのようにオリジナルかコピーかの真偽をチェックしなくちゃいけない。

 これは、惑星アッシュルバニパル図書館で僕が皇帝陛下と呼ばれるまでの物語だ。

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