本棚は〝衝動〟の器 だから人と人を繋ぐメディアとなりうる―ホンとの話#1
本のある場所研究会です。
定期的に開催している研究会のミーティングの中で語られる「今これがおもしろい!」という中の人たちのアンテナに引っかかる「本のある場所」をめぐるあれこれをコラム化したら面白いんじゃないか?と考え、「ホンとの話」という題で発信をスタートしていきたいと思います。
(執筆 太田知佳)
併設スペースの可能性とその効果
8月末、初めて「日本全国・シェア書店リスト」を公開しました。
その編集のためにそれぞれの書店さんのホームページやSNSのアカウントを整理しながら感じたのは、抱き合わせのスペースの多様性!カフェやお菓子屋、ちょっとしたライブなどが開かれるスペースなどをはじめ、酒蔵、地域コミュニティ、日帰り温泉まで!!!
本をめぐる場所はこんなにもさまざまに進化しているのかと驚かされました。
加えて、伝わってくるのはその場を作るために込められたオーナーさんの場づくりへの思いや願いです。
山形県にある「あすなろ書店東根店」ではスペース内にお酒なども一緒に販売するまさに進化型書店なのですが、さらに面白いのは併設される小さなギャラリーで4月に開催された「私の推し 藤井風を描く原画展」。趣味で藤井風を描いてInstagramに投稿していたyu.mi2134さんの原画展でしたが、ネット上で話題を呼び、熱烈な藤井風ファン、フォロワーは県を跨いで書店を訪れた人も多くいたとか。これはもう新たな「聖地巡礼」と言っても良いのではないでしょうか。現在まさに9月9日から10月12日まで2回目の展示会を開催していらっしゃいます。
多様なメディアとの掛け合わせによる新しい空間デザイン?新しい体験の創出?いや、そんなカタカナクリエーターのプレゼンに出てきそうな言葉ではなくシンプルにこれを人々を突き動かす〝衝動〟の一つの現れと見たいのです。
本棚には何が詰められているのか
シェア型書店の調査を始める中で、自ら本棚の一角のオーナーとなったり、自ら本棚を備えたカフェを運営し始めるメンバーも。
旭川でカフェ運営を始めたメンバーはカフェの場づくりに対して「あさごはん」のこども食堂の活動を通じて「関係性のデザイン」をすることを大切にしていると言います。旭川の魅力を伝えながら、誰かと、何かと、出会って可能性が生まれる場所に育てていくことを目指すプロジェクトであり、書店のスペースもまた「関係性のデザイン」のため、出会いと可能性を生み出すための大事な場所なのだそう。
本といういわば「何かを形にしたい」「これを伝えたい」の塊を並べる本棚、そして本棚のオーナーとなった人の「この本と出会ってほしい」「私の推しを知ってほしい」を受け止める本棚。それは入れ子構造で人々の〝衝動〟を受け止める器であり〝衝動〟を媒介するメディアとなりうる。そう考えると、本棚が「関係性のデザイン」のための大切な場づくりに一役買う価値に強く納得させられるのです。
一方で、本棚は有限で物理的なスペースであるため、一冊置けばその分、別の本を置くことができなくなります。思いや願いが強くなればなるほど、自分はこの棚に何を置くのかという問いに向き合うことになると言ってもいいかもしれません。
北極冒険家の荻野氏は本の著者と本屋の関係に対し「沢山のお店に置かれることももちろん大事ですが自分が好きな店、自分のことを好きになってくれる店を、人間同士の関係性の中で築いていきながら、その結果として自分の作品を売り続けてくれる店を開拓していくことも、重要だと思います。」と言います。
本の作り手と売り手の関係性にフォーカスしたこの記事も、本屋を一つの本棚と見ることもできるのではと感じさせます。また、前述したような多様な併設空間、抱き合わせで販売されているものたちも丸っと含んでその場所を作る人々の思い願いに突き動かされた〝衝動〟そのものと言えるの
ではないでしょうか。
シェア型書店であらわになった本棚のメディアとしての可能性。
本棚は人を行動へ突き動かす〝衝動〟と可能性が詰め込まれるのを待っている。そんな気がするのです。
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