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本を作ったので、書店で販売して欲しいという連絡に対する私感

冒険研究所書店のTwitterにアップしたものを、こちらにも転載。

最近また、本を作ったので販売して欲しいという問い合わせをよくいただきます。オンデマンド印刷などで個人でも手軽に製本ができるサービスもあり、ZINEや文フリなどの潮流も手伝い、作りたい方、売りたい方が増えていると思います。独立系書店として、そんな方々への情報提供として書きます。

書店のサイトからのお問い合わせメールで「こんな本を作りました、販売してもらえませんか」というご連絡をよくいただきますが、正直に言うとその情報だけで「置く」という判断をするのは難しい書店が多いのではないかと思います。

一般の方からすれば、書店の書棚には本がたくさん詰まっていて「こんなに沢山あるのだから、一冊くらいイケるだろう」と思うかもしれませんが、書店を日々やっていると書棚のスペースとの格闘です。日々、良い本が沢山出版されるが、書棚には物理的な制限があり、店主は自店の書棚の狭さに苦心して限られたスペースに本を置こうと苦慮しています。

本を選んで買取で仕入れている独立系書店であれば、なおさら一冊を入れるか入れないか悩みます。書店の棚は、その店のスタメンのラインナップです。野球であれば打順を9番まで考えて並べるでしょうが、書店も同じです。そこに「最近コロンビアで活躍している良い選手がいるけど、どう?」と選手の詳しい情報もなく、年俸はいくらで、契約条件はいくらで、と提示されても判断のしようがありません。

それと同じで、メールだけで「本を作りました。こんな本です。仕入れ条件、掛け率は◯◯で」と言われても、なかなか今のスタメンを崩してまでその本を割り込ませよう、という気持ちになりません。

だからと言って、では店に直接来ていただいたら置くのか、と言われればそうでもありません。もちろん、本の実物は見れるでしょうが、コロンビア選手のフリー打撃や守備練習を見た上で入団お断り、かもしれません。が、本の実物を見ないと話にならないのはその通りだと思います。

もちろん、連絡いただけるのは嬉しいことですし、せっかく作ったものを売りたい気持ちもよく分かります。もし、書店をやっている私がこれまでの経験として、自分が自著を売り込む側だったらどうするかを考えると、自分が好きな店、自分のことを好きになってくれる店を作るところから始めると思います。

日々、書店をやっていると、特にうちのお店ではお客さんとよく話をします。店主の荻田は冒険家という特性もあり、荻田目当てで来る方もいます。すると、話をする中で「この本面白いですよ!オススメ!」と、そのお客さんに合った本が思いついてお薦めすると、ほとんどの方はお買い上げいただきます。

そういう本は当店だけで3桁冊数売れたりします。100冊以上ということです。そんなお店がもし5店舗あったらそれで500冊。単純計算ですが、そうなります。正直に言うと、書店からすれば本はあくまでも商品ですので、選んでいるとはいえ全ての在庫に思い入れや情熱を持っているわけではありません。

せっかく書店に置かれても、見向きもされずに書棚の片隅で日の目を見ない。それでも沢山の書店に置かれているという事実にはなりますが、書店主からすればその一冊が売れたとしたらそのスペースには別のスタメンメンバーを置きたくなるでしょう。

沢山のお店に置かれることももちろん大事ですが自分が好きな店、自分のことを好きになってくれる店を、人間同士の関係性の中で築いていきながら、その結果として自分の作品を売り続けてくれる店を開拓していくことも、重要だと思います。そして、書店からすればそういう情熱を持った人は歓迎するはずですし、応援したくなると思います。

上記で終わろうかと思いましたが追記。では、まだ読んでもいない最新刊をどうやって仕入れているのか、という疑問が湧くかもしれません。そしてほとんどの書店では仕入れている本はほとんど読んでいません。当たり前ですが、全て読んでいたら時間が足りません。その辺りは、正直にいうと嗅覚でしょうか。

それと、それなりに名の通った出版社であれば、編集者、校閲、校正などのプロの手が入ったものであるという信頼感が担保されています。大手出版社だから、というミーハーではなく、本の制作に関する確かなプロセスを信頼しています。

が、どこの誰かも分からない方の情報不確かな本を、メールだけで置いて欲しいと言われても、なかなか判断ができないのは、そのような事情もあります。要は、何が書いてあるのかも分からない。読み進めてみたら、実はゴリゴリのヘイト本だったなんてことも危惧します。そして、仕入れた本を全て読み通してチェックしている時間もないという事情もそこに加わります。

本は楽しいものですが、危険なものでもあります。危険だからこそ、焚書や発禁の対象になったり、誰かの思想に直撃してその人の人生すら左右しかねないものでもあります。売る側としては、儲かればなんでも売りますよという姿勢の人もいるかもしれませんが、少なくとも私たちはそう考えていません。


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