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月の矜持にかけて

私が小学生の頃、CHAGE&ASKA(以下C&A)の「SAY YES」が大ヒットしました。その数年後には「YAH YAH YAH」も売れに売れました。今でも我々の世代ではカラオケの定番です。どちらの曲も作詞作曲はASKAさんです。C&Aのシングル一曲目は1987年の「ロマンシングヤード」を最後に、ずっとASKAさんの曲が続きました。2001年の「夢の飛礫」で久しぶりにCHAGE(現・Chage)さんの曲が表題作になりましたが、もうその頃のC&Aにはそこまでの求心力がなかったので、あまり話題にならなかった記憶があります。私は喜びましたけどね。なぜなら、子どもの頃からずっとChageさんの方が好きだったから。好きというか気になって仕方なかったんです。本当にその立場でいいの? 思うところあるんじゃないの?って。

正直ヴィジュアルやカリスマ性はもちろん、アーティストとしての表現力、ヴォーカリストとしての力強さなど、ほぼ全てにおいてASKAさんの方が上だったと思います。ここがジョン・レノン&ポール・マッカートニーの関係性とは異なる点です。カリスマ性ではジョン、ミュージシャンとしてはポールが上とよく言われますが、ジョンにも「イマジン」など世界的に認知されたヒット曲がたくさんありますし、ポールもソロで世界中をツアーし、大成功を収めています。彼らは各々異なる武器を持っていて、なおかつその輝きが拮抗していました。いわば、どちらも太陽なんです。でもASKAさんはC&A脱退時のインタビューで「僕らの理想的なバランスは僕が7でChageが3」と話していました。ChageさんもASKAは太陽で自分は月だと認めています。

太陽と月は対等でしょうか? ほとんどの人は太陽が出ている時間に共に活動し、月が上空を支配している時間は眠っています。太陽の光は誰の元にもシンプルに平等に届きますが、月の光はそういうわかりやすいものではありません。感じようと思った人だけがセンシティブに感じ取れる類の何かです。私は自分が太陽タイプではなく、月タイプであることを知っています。太陽みたいな人間をいつも眩しいなと思って陰から指をくわえて見ていました。

だから昨日の試合を見る前、密かにEVILに感情移入していました。新日本プロレス・愛知県体育館大会の話です(まだ見てない方は以下ネタバレを含みますので要注意)。高橋ヒロムという、みんなを笑顔にするアバンギャルドな太陽を迎え撃つ実直過ぎる闇夜の月EVIL。今日こそはコツコツと培ってきた無骨な直線ファイトで、一気に上り詰めたド派手なトリックスターを圧倒するのかなって。

なのに。

EVIL、本当にそんなことがしたいの? いやEVILじゃない。新日本! これじゃあKENTAの時と一緒だよ。神宮の前振りだか何だか知らないけど、いい加減そういうのやめようよ。もうずっとバッドエンドしかないじゃん。いやバッドエンドですらない。ただの消化不良。そんなやり方で月が太陽に勝ったとして、誰が勇気をもらえるんですか? 世の中のほとんどの人は、どんなに憧れても太陽にはなれないんですよ? 本当は月を眺めて何かを感じたい夜の住人なのに、昼間に働かねばならない宿命を背負った者が多数なんです。会社と仲間のために報われないいい仕事を続けてきたEVILがやっとつかんだ成功には、ある意味でヒロムの夢以上に見ている人に勇気を与える要素があったんです。それなのに。レフェリーの目を盗んで急所を蹴るかセコンドが首を絞めるかが決め手の二冠王者を生で見るために高いカネを払う人間がどれだけいるんですか? このご時世に。それが昔ながらのヒールの闘い方だというのは百も承知です。でも今はもうそういう時代じゃないんですよ。一期一会のライブが持つ希少性、客がそこへ参加することへのリスクをもっと考えてください。ヒールのあり方を早くアップデートしなきゃ、みんな動画を見るだけで会場に足を運ばなくなりますよ。

もうひとりの太陽であるオカダ・カズチカがしばらくベルトには挑戦しないと言っていた意味がわかりました。彼がレインメーカーを使わなくなった理由も。せっかくの神宮大会ですが、見に行きません。内藤がEVILに勝ったらEVILがあまりにも不憫だし、EVILが防衛するとしたらまた金的&乱入三昧でしょう。

太陽である新日本プロレスよりも月である全日本プロレスの方が、今の私の目にはまぶしく映ります。月には月の闘い方、矜持があるのです。それを捨てて太陽に迎合して栄光をつかんで楽しいのか、と改めて自分を見つめ直す機会をもらえました。昨日のプロレスでいうなら、新日本・愛知県体育館のメインよりも、全日本・後楽園の第3試合ゼウス&イザナギが出た3WAYタッグ戦の方が百億倍楽しかったです。これ、マジ。



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