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銀座通りと宇宙船

宇宙船ヤギ、母星まで300キロ

今日はSFチックにはじめてみよう。

宇宙船ヤギ号は10年前、愛知の母星を後にした。

横浜に駐在中推進力をぐんぐんと伸ばして、第2宇宙速度を突破。日本の重力を振り切り、欧州圏へ。

イギリスで機体改造後、フィンランドの心地よい引力を利用してヨーロッパ・アメリカ大陸上空を通過。

母国の重力を使って再び他の惑星に向かおうとするも、再突入の際に機体は大破、推進力が大幅に低下した現在、恋人星の軌道上を周回中。

ただいま、母星との距離300km。

いもうとのこども

電話で聞いて驚いた。妹に子供ができたという、しかも2ヵ月目だそうだ。

祖父母が家を出ていった、曾祖母が亡くなった、祖母が入院した、妹が暴漢に襲われかけた。

ここまで技術の発展した現代でも、彼方で起こるさまざまな歴史的事象は、いつも時差を挟んでわたしのもとへ届けられる。

わたしが大好きなSF映画「インターステラー」をご存知だろうか。

宇宙タイムトラベル系とでも言うのだろうか昨年、超難解ストーリーで話題となったTENETを手掛けたクリストファー・ノーランの作品の一つ。

荒廃した環境の中で生きる人類を救うべく、宇宙に立つ主人公。地球から離れればはなれるほど、残してきた娘との間を隔てる時差は大きくなっていく。

断続的に送られてくる映像。見るたびに大きく変わる娘の姿に、過ぎ去った時間を思い知らされる父親。

いまなら少しだけ、彼の気持ちがわかるかもしれない。

もじ欠けて銀座

わたしの母星は、喫茶店の発祥地として有名だ。歴史の教科書には「ガチャマン時代」という言葉が載っており、過去にとんでもない機織りバブルが起きたらしい。

今でもたくさんのノコギリ屋根の工場が残っており、上京してきてから、そのさまが当たり前の光景ではなかったと知った。

ガチャリ、一万円、ガチャリ、一万円。織り機が音を立てるたびに、一万円もうかったとのこと。そもそも、織り機を知らない方はイメージするのが難しいかもしれないが。

そんな街の中心に、寂れた銀座通りがある。並びにはイヤイヤ通っていたスイミングスクールが建つ、思い出深い場所だ。

泳ぐのは好きだったのだが、更衣室とプールとの間にある待合室が大変お粗末なもので、小さな窓とコンクリートの壁、リノリウムの床、隅に身を寄せ合う不安そうな子どもたち、カルキの匂い、そのすべてが嫌だった。

そんなプールも今ではフィットネス施設にリニューアルされたと聞いた。必死な抵抗も虚しく連行されていく子どもたちの姿はなくなってしまったようだ。

通りの入口にはGINZAのネオンが光っている。

通学時にいつも通るそのアーチの上で、GI○ZAとかGIN○Aとか、なぜかいつもネオンが一文字切れかけているのが不思議だった。

名古屋にリニアが通るという話が持ち上がり、現在はベッドタウンとしての需要が高まっているのだろう。少子化なんてなんのその、ドミノ倒しのように田園風景は新興住宅地に塗り替えられていく。

訪れるたびに変わる風景を見て、そこでもまた、映画の主人公の気持ちが思い起こされる。どれだけ遠くに来てしまったのだろうか、自分だけが変わらないままなのか。

ウラシマ太郎の隣で

話は戻るが、そう、わたしは初めておじさんになるのだ。

その報告と同時に、わたしは焦らなくても良いと気遣ってきた。

われながらよくできた妹だと思う。そんな気遣いのできるヤツの子供が、幸せにならないわけがない。既におじバカになる準備はできているぞ。

これから先、コロナが収束せずとも、なにかの引力が働けば再びどこかに旅立つことになるだろう。恋人にはまた寂しい思いをさせてしまうかもしれない。

ただ、どれだけ離れていようと、行く先々で彼女らの幸せを星に願おう。

映画から言葉を借りるなら、愛は時空を超えられるのだ。



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