殯の森
河瀬直美監督の『殯の森』。
奈良の山間部にあるグループホームで妻の想い出とともに静かな日々を過ごす認知症を患うしげき。そのグループホームに新任介護福祉士としてやってきた真千子も子供を亡くし、離婚した喪失感を抱えています。失った者への想いとともに生きる者として少しずつ打ち解け合うしげきと真千子。ある日、二人はしげきの妻の墓参りへ盛夏の森へと出かけるのですが…。
カンヌで審査員特別賞グランプリを受賞した作品ですが、多分かなり好き嫌いが別れる映画です。河瀬監督はプロの役者をほとんど使わず、素人を使って撮るのですが、ほとんどが素人さんの為、滑舌が悪くそのうえ関西弁なので台詞を聞き取るのにかなり苦労します。そして説明はほとんど省かれているので、しげきが33年も抱き続けた妻との繋がりや思い出、真千子が子供を失った状況や離婚するに至る経緯などほとんど語られません。なのでストーリーを追おうとして見るとものすごくフラストレーションの溜まる映画です。
でも無理に意味を拾うことを止めて、目の前にあるシーンをそのまま受け止めて感覚に訴えてくる部分を感じるままにして見るとまた違う迫力を持って見えてくると思います。
淡々と進む中、真千子が森の中でしげきに「いかんといて!いったらあかん!」と文字通り号泣するシーンは圧巻です。
音響も素晴らしく、田舎の音がそのまま聞こえてきます。どこまでも濃い緑と生命力に溢れた音。その中で2人は捕われていたものを葬り思い出に変えていきます。2人の儀式は泥臭くけして美しくはないけれど、ひどく幸せそうに見えます。
少しご都合主義な部分が目につく部分もありますが、身近な人間を亡くし、哀しみを昇華させ思い出に変える経験をしたことのある人なら共感できるんじゃないでしょうか。
人は哀しみを思い出に変える時、何を葬るのでしょうか。
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