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【本084】『ぎょらん』

著者:町田そのこ 出版社:新潮文庫

私が小説を読むにはいろんな理由があるけれど、そのひとつに、あの日のできごとの「意味」を知りたいというのがあります。登場人物に自分を重ね過去を辿ることで、自分自身に問いかけ続ける。『ぎょらん』はまさにそんな本でした。

「ぎょらん」は、人が死ぬ時に残す小さな赤い卵。これを口にするとその人の最期の願いや想いが伝わるのだと言います。主人公の朱鷺は、自殺した親友の「ぎょらん」を口にし、親友の朱鷺に対する苦しい想いを知ったことから、深く傷つき、引きこもりとなります。

7編からなるこの小説には、朱鷺の他にも多くの悔いの残る「死」が描かれています。とはいえ、決して人の憎悪や闇を描いたものではなく、死(ぎょらん)を通じて、深い哀しみの裏にある温かな愛や光を描いています。

人は人と繋がるために生まれてきて、人を愛するために人生がある。だからこそ、その繋がりを突然断ち切る「死」に執着してしまうし、私たちはそこに何かしらの「意味」を探してしまいます。

でも、その「意味」は常に正しいものでしょうか。
闇に偏った解釈をしていないでしょうか。

不思議に聞こえるかもしれませんが、人は光をまとって生きるより、闇を抱えて生きるのを選ぶことがあります。それは、「愛」が光の先にあるのではなく、闇の先にあるからなんだと思います。

『ぎょらん』は、そんな闇に行き詰まってしまった人に愛を届ける小説です。

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