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ハーベイ賞2023ノミネート作品が発表されました

アイズナー賞と並ぶアメリカの漫画賞ハーベイ賞(Harvey Awards)2023のノミネート作品が発表されました。

6つのカテゴリーで作品が選定されており、10月に開催されるニューヨーク・コミコンで受賞作品が発表されます。

2022年のハーベイ賞の受賞作品については下の記事をご覧ください。

ではノミネート作品をみていきましょう!
Youtubeライブでも詳しくご紹介していますのでこちらもどうぞご覧ください!


Book of the Year

オリジナルが刊行されて間もなく日本語版も発売されたニック・ドルナソの『アクティング・クラス』(藤井光訳、早川書房)。SNSの闇や陰謀論を痛烈に描き、グラフィック・ノベル初ブッカー賞にノミネートされてセンセーショナルを巻き起こしたサブリナのニック・ドルナソの最新作。演劇教室に集まった、それぞれに問題を抱える10人の男女。裏のありそうな怪しい演劇教師に導かれて、現実と虚構の境界がだんだん曖昧になっていく……。
ポッドキャスト「海外マンガの本棚」でも取り上げていますので、こちらもご覧ください!

  • Ducks: Two Years in the Oil Sands by Kate Beaton (Drawn and Quarterly)
    アイズナー賞2023Best Graphic Memoir、Best Writer/Artist受賞。学生ローンを返済するためにカナダ・アルバータ州のオイルラッシュに便乗して西に向かう。オイルランドでの厳しい生活を描く。

  •  Follow Me Down: A Reckless Book by Ed Brubaker, Sean Phillips and Jacob Phillips (Image Comics)
    エド・ブルベイカーとショーン・フィリップスのRecklessシリーズ第5弾。1980年代のロサンゼルスを舞台に、トラブルメーカー、イーサン・レックレスが主人公のクライム・ノワール。

  • Girl Juice by Benji Nate (Drawn and Quarterly)
    ナナ、バニー、トゥーラ、セイディの4人の女性が活躍する、ハチャメチャで陽気で自堕落な日常。

  • It’s Lonely at the Centre of the Earth by Zoe Thorogood (Image Comics)
    アイズナー賞2023Best Graphic Memoirノミネート。生き残るために創作しなければならない我儘な漫画家の孤独な生活を描いた自伝。

  • Little Monsters Vol. 1 by Jeff Lemire & Dustin Nguyen (Image Comics)
    地球上の最後の子どもたちは、吸血鬼。廃墟で暮らす永遠の命を持つ吸血鬼の子どもたちに衝撃的な出来事が起きる。

  • The Man in the McIntosh Suit by Rina Ayuyang (Drawn and Quarterly)
    1929年、法律の学位を持ちながらカリフォルニアに出稼ぎにやってきたフィリピン出身のボボットは肉体労働に転落する。フィリピン系アメリカ人リナ・アユヤンによる、大恐慌時代にアメリカン・ドリームを求めてやってきたフィリピン系移民の物語。

  • Mimosa by Archie Bongiovanni (Abrams ComicArts/Surely)
    親友であり”選ばれた家族(Chosen Family)”でもあるクィアな4人、クリス、エリーゼ、ジョー、アレックス。4人は定期的にブランチを囲んで、パーティをする。仕事、恋愛、友情、さまざまな悩みを抱える4人の日常。

  • Public Domain Vol. 1 by Chip Zdarsky (Image Comics)
    アイズナー賞2023Best New Series受賞作。「ザ・ドメイン」という大人気スーパーヒーローを生み出した漫画家シド・ダラスと彼の息子マイルズとデイヴィッド。「ザ・ドメイン」は映画化され爆発的に大ヒットし、さまざまな商品に展開されているが、熱狂的なコミックファン以外に原作者であるシドを顧みる人はいない。そのことを不満に思う息子たちはコミック周辺の巨大企業に戦いを挑む。

  • Who Will Make The Pancakes by Megan Kelso (Fantagraphics)
    15年間にわたって描かれた5つの物語。母親となった作者自身の経験をベースに、母性と母であるということは人種差別、階級、愛、虐待にどのような影響を与えるかをテーマにしている。

Digital Book of the Year

  • Barnstormers by Scott Snyder and Tula Lotay (Comixology Originals)
    アイズナー賞2023Best Digital Comic受賞。第一次世界大戦直後を舞台にした飛行機乗りの冒険ロマンス。

  • Deeply Dave by Grover
    アイズナー賞2023Best Webcomicノミネート。音楽、アニメーション有の縦スクロールマンガ。

  • Everything is Fine by Mike Birchall
    ハーベイ賞2022Digital Book of the Yearノミネート。普通の夫婦、普通の家、普通のお隣さん…そんな普通の風景の中に潜む恐怖。…いや、猫の被り物してる時点でめちゃ怖い。メルヘンカラーのホラー・ウェブトゥーン。

  • Lore Olympus (『ロア・オリンポス』)by Rachel Smythe(レイチェル・スマイス)
    アイズナー賞2023アイズナー賞2022Best Webcomic受賞。ハーベイ賞2022ハーベイ賞2021Digital Book of the Year受賞。アメリカで不動の人気を誇るギリシャ神話ラブロマンスウェブトゥーン。

  • Ripple Effects by Jordan Hart, Bruno Chiroleu, Justin Harder, and Shane Kadlecik
    アイズナー賞2023Best Digital Comicノミネート。糖尿病という「目に見えない病気」を抱えたスーパーヒーロー・医療マンガ。目に見えない病や障害を抱えた人の生活と仕事のバランスや困難さを描く。

Best Children’s or Young Adult Book

  • Clementine Fox and the Great Island Adventure by Leigh Luna (Graphix/Scholastic)
    プロのアマチュア冒険家、キツネのクレメンタイン・フォックスの大冒険。学校に行くはずが仲間と一緒に砂浜にやってきたクレメンタインは神秘的な島に渡る。

  • Dungeons & Dragons: Dungeon Club: Roll Call by Molly Knox Ostertag and Xanthe Bouma (HarperAlley)
    親友で物語を創るのが大好きな中学生のジェスとオリビア。最近ハマっているのがオリビアがダンジョンマスターをつとめるロールプレイイングゲーム「ダンジョンズ&ドラゴンズ」。でも二人の友情に異変が…。

  • Frizzy by Claribel A. Ortega and Rose Bousamra (First Second)
    アイズナー賞2023Best Publication for Kids (ages 9-12)受賞。ドミニカ共和国の女の子マレーネの大敵は美容院。周囲からキレイと言われない縮れてカールした髪をどのように受け入れていくか。

  • Hungry Ghost by Victoria Ying (First Second)
    真面目で物静かな女の子ヴァレリー・チューは痩せている。過食と嘔吐を繰り返していることを親友のジョーダンでさえ知らない。有害な母親との関係、摂食障害、美しくも胸が張り裂けるようなグラフィック・ノベル。

  • In Limbo: A Graphic Memoir by Deb JJ Lee (First Second)
    韓国系アメリカ人の成長を描くグラフィック・メモワール。韓国から渡米したデボラ(ジョンジン)は、不得意な英語、名前を発音できない教師に疎外感を感じる。高校に入ると友情は破綻し、母親との喧嘩がエスカレートして精神的に追い詰められ自殺未遂を図るが、アートに救済を求める。

  • Northranger by Rey Terciero and Bre Indigo (HarperAlley)
    テキサスの田舎で育ったホラー好きな16歳の少年ケイドはクィアなラテン系ティーンエイジャー。夏の間、牧場を手伝うことになり、牧場主の息子ヘンリーに恋心を抱く。しかしヘンリーの母親の死には秘密があり……。テキサスの牧場を舞台にしたクィア・ラブロマンス。

Best Manga

Best International Book

  • Alice on the Run: One Child’s Journey Through the Rwandan Civil War by Gaspard Talmasse, translated by Nanette McGuinness (Life Drawn)
    原書は『Le grand voyage d'Alice』(フランス、La Boîte à Bulles)。
    オレンジBD賞2022ノミネート。
    1994年、ルワンダ南部に住む5歳のアリスは両親や妹たちと平和に暮らしていたが、内戦が起き避難を余儀なくされる。当時のザイール(現コンゴ)へキャンプからキャンプへと数千キロを移動する難民の生活を子どもの目線で描く。

  • Always Never by Jordi Lafebre and Clemence Sapin, translated by Montana Kane (Dark Horse Books)
    原書はMalgré tout(フランス、Dargaud)。
    アイズナー賞2023Best U.S. Edition of International Materialノミネート。
    雨が降りしきるなかにデートをする老カップルの第20章から始まり、過去へ戻りながらふたりの馴れ初めを遡るラブロマンス。作者は最高の夏休みのジョルディ・ラフェーブル。

  • Ashes by Álvaro Ortiz, translated by Eva Ibarzabal (Top Shelf Productions)
    原書はCenizas(スペイン、Astiberri)。
    長年会っていなかった古い友人ポリー、モホ、ピーターの3人が地図に示された謎の十字架をめざして旅に出るロードトリップ。彼らを待ち受けるのは、カーチェイス、アルコール、道端のモーテル、バンジョーを演奏する凶悪犯、船の墓地……。

  • Blacksad: They All Fall Down Part 1 by Juan Díaz Canales and Juanjo Guarnido, translated by Diana Schutz and Brandon Kander (Dark Horse Books)
    原書はBlacksad - Tome 6 - Alors, tout tombe(フランス、Dargaud)。
    アイズナー賞2023Best U.S. Edition of International Material受賞。
    ブラックサッド そして、すべて堕ちる[前編](大西愛子訳、ユーロマンガ)。
    日本でも人気の高いブラックサッドシリーズの第6作にして最新刊。1950年代の冷戦時代のアメリカを舞台に黒猫の私立探偵ブラックサッドを待ち受ける事件。

  • The Extraordinary Part: Book One: Orsay’s Hands by Florent Ruppert and Jérôme Mulot, translated by M.B. Valente (Fantagraphics)
    原書はLa Part merveilleuse - Tome 1 - Les Mains d'Orsay(フランス、Dargaud)。
    数年前に突然出現した「ホール」と呼ばれる謎の生き物が人間と共存する世界。19歳のオルセーはフランスの田舎で平穏な日々を過ごしていたが、異常に攻撃的な集団に遭遇した後、並外れた力を手に入れる。

  • Tiki: A Very Ruff Year by David Azencot, Fred Leclerc and Lucie Firou, translated by Nanette McGuinness (Life Drawn)
    原書はTiki: Une année de chien(フランス、La Boîte à Bulles)。
    アイズナー賞2023Best U.S. Edition of International Materialノミネート。
    ロックダウン中の2020年11月、家族は子犬を飼うことに決めたが……。かわいさだけではないペットを飼うことの大変さをユーモアまじえて描く。

Best Adaptation from Comic Book/Graphic Novel

ドラマが配信される前に記事も書いているのでこちらもご覧ください。

  • Drops of God (Apple TV+)『神の雫/Drops of God』(Hulu), based on Drops of God by Tadashi Agi and Shu Okimoto (Vertical)
    亜樹直 作、オキモト・シュウ画神の雫のドラマ化。

  • Moon Knight (Disney+), based on Moon Knight (Marvel Comics)

  • Nimona (Netflix), directed by Nick Bruno and Troy Quane, based on Nimona by ND Stevenson (Quill Tree Books)
    濡れ衣を着せられ王宮を追われた騎士のもとに現れた少女ニモーナ。変身能力のために人々から忌避されたニモーナはとともに、騎士は真犯人を探そうとするが……。とってもクィアで善と悪、差別や階層社会をエンタメとして見せてくれる傑作アニメ。

  • The Sandman (Netflix), based on The Sandman (DC Comics)
    2023年に復刊が始まったサンドマンの実写ドラマ。夢をつかさどる夢の王ドリーム(サンドマン)は魔術師によって捕らわれの身となり、眠り病が蔓延する。ドリームは自分の力を取り戻す旅に出る。

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さてノミネート作品はいかがでしたでしょうか?

個人的に気になるのは、Zoe Thorogood『It’s Lonely at the Centre of the Earth』。ゾイ・ソログッドさんはアイズナー賞にも複数ノミネートされ、新人賞を受賞しています。英語圏マンガでは次に読みたい作家のひとりです。

またヤングアダルト向けグラフィック・ノベルが個人的に気になっているので、大好きな出版社First Secondさんの『Hungry Ghost』『In Limbo: A Graphic Memoir 』、『ハートストッパー』や『Bloom』が好きな方にオススメとされていた『Northrangerですね。読んでみたい本が増えてしまいました!

ハーベイ賞の特徴としてマンガ原作のアダプテーション作品の賞があるのが興味深いところですが、今回のノミネート作品ではNetflixアニメの『ニモーナ』が最高に面白かったです。未見の方にはぜひともオススメします。

さて最優秀賞は10月のニューヨーク・コミコンで発表されます。どの作品が選ばれるのか今から楽しみです。

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